主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2025年日本地理学会春季学術大会
開催日: 2025/03/19 - 2025/03/21
1.はじめに
近年、アフリカ熱帯高山の氷河は急速に縮小しており、今後十数年で消滅する可能性が高く、顕著に温暖化の影響を受けている地域のひとつである。いくつかの先行研究では他ヒマラヤ地域の高山帯では温暖化とともに乾燥化が進んでいることが指摘されているが、本地域では氷河が後退面に植物が前進していることから湿潤化しているとの予測もある。一方で本地域では温湿度や降水量の経時的な観測が行われておらず、高山帯の水分環境の変化は明らかにされてこなかった。
2.研究の目的〜安定同位体を用いた乾燥ストレスの復元〜
植物の炭素安定同位体(δ13C)は植物自身が受ける乾燥ストレスと高い相関を示すことがわかってきている。また樹木年輪に含まれる一年毎のδ13Cを分析し、気候変動による経時的な植物の乾燥ストレスの変化を推定する研究が進んでいる。一方で今回の東アフリカ高山帯(約4,000m以上)は森林限界以上のため樹木がなく、年輪を用いた古環境の復元ができない。
そこで東アフリカ高山帯の標高約3,000m以上に分布しているジャイアント・セネシオ(Dendrosenecio; 以下, セネシオ)の枯葉に着目した。セネシオはキク科の半木本植物で、高山帯の低温環境に耐えうるように、枯葉となった葉を保温のために幹の周りに保存する生態的な特徴があり、「セーター植物」とも言われる。つまり過去の生育期間中の葉がほぼ全て保存されており採取可能である。
本研究ではセネシオの根元から樹頂点までの枯葉を採取し、それぞれのδ13Cと年代測定を実施する。そして過去から現在までの経時的な乾燥ストレスの変化を復元し、東アフリカ高山帯の水分環境の変化を推定することを目的とした。