日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会春季学術大会
セッションID: S109
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日本地理学会と人文地理学会の歩みと発展
協働による地理学界の未来
*矢野 桂司
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抄録

1. はじめに

 本発表では,主に東京・関東を拠点として発展してきた日本地理学会と,京都・関西を中心に展開してきた人文地理学会の歩みを概観する.そして,日本の地理学を代表するこの2つの地理学会の特徴を述べ,両学会の協同による地理学界全体の発展の可能性について検討する.

2. 2つの地理学会の設立と戦前の地理学

 日本の大学における地理学教室は,1907年に京都帝国大学文科大学史学地理学第二講座(地理学)として設立されたのが始まりである.その後,1919年に東京帝国大学理学部地理学科,1929年に東京文理科大学文理学部地学科が開設された.1921年からは,山崎直方教授を擁する東京帝国大学地理学科で毎年卒業生が輩出され,地理同好会が発足した.そして,1925年に『地理学評論』が刊行され,日本地理学会の創設が公式に認められた(中川ほか 2000).

 一方,人文地理学会は,1947年4月に京都大学文学部の助教授に就任した織田武雄が中心となって,1948年3月に「地理学の再建」と「学会の民主化」を掲げて設立された(人文地理学会 1998).

3. 戦後の2つの地理学会の歩み

 人文地理学会は,戦後の新しい時代に向け,戦争との関わりを完全に断ち切りながら発展を遂げた(Yamada 2007).特に,戦後の学校教育における地理教育の再編の過程で,学会として地理教育への貢献を重要なテーマに掲げた.人文地理学会という学会名称は,新制高校の社会科で新たに設けられた「人文地理」という科目名に呼応して採用されたものである.ただし,この科目「人文地理」は,自然環境と人間活動の双方を包括的に扱うことを目的としており,自然地理学的な内容も多く含まれていた.

 これに対して,日本地理学会は,戦前から自然科学の一分野として活動してきたが,1949年の会則改訂を契機に大きな変革を迎えた.山崎直方とその一門を中心とした学会は,戦後の民主化運動の流れを受けて全国の地理研究者に門戸を開放し,全国規模で地理学を代表する学会へと発展した(日本地理学会編 1975).

4. 現在の2つの地理学会の発展と地理学連携機構

 現在,日本地理学会は,「地理学評論」,Geographical Review of Japan Series B,およびE-Journal GEOの3つの機関誌を発刊している.また,春(関東)と秋(関東以外)の年2回,学術大会を開催し,27の研究グループが研究集会などの活動を行っている.一方,人文地理学会は,機関誌「人文地理」を年4回発刊し,毎年秋に学術大会を開催している(3年に1回は関西以外で開催).さらに,6月に関西以外で特別例会を実施し,5つの研究部会が随時研究会を開催している.

 これら2つの地理学会に加え,東北地理学会や地理科学学会など関東・関西以外を拠点とする学会,また経済地理学会,歴史地理学会,東京地学協会,日本地形学連合など,系統地理学に関連する学協会が約30存在する.これらの学協会は,会員が重複する一方で,それぞれ独自に活動を展開している.

 しかし,IGU(国際地理学連合)やICA(国際地図学協会)といった国際学術団体への対応や,日本全体の科学振興,政策提言,科学者間の連携,研究環境の整備などを目的とする日本学術会議との協力が求められる場面では,学協会の枠を超えた連携が必要とされる.このような背景のもと,日本地理学会と人文地理学会が中心となって,関連学協会を束ねる連合体として,2009年に地理学連携機構が設立された.

5. おわりに

 日本地理学会と人文地理学会は,日本を代表する地理学の学会として,地理学連携機構などとともに,これまでの歴史を踏まえつつ,未来に向けて日本の地理学界全体のさらなる発展に貢献する重要な役割を担っている.

文献

人文地理学会 1998.『人文地理学会50年史』人文地理学会.中川浩一・竹内啓一・岩田一彦・立岡裕士・久武哲也・源昌久 2000. I 地理学の制度化と日本地理学会の創設. 地理学評論 73A: 225-247.日本地理学会編 1975. 『日本地理学会五十年史』古今書院.Yamada, M.2007. Human Geography in Japan: Its Development and Current Circumstances. Japanese Journal of Human Geography 59-6: 23-37.

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