主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2025年日本地理学会春季学術大会
開催日: 2025/03/19 - 2025/03/21
地域政策・都市政策において、アクセシビリティの視点はいっそう重要性を増している。人口減少・少子高齢化をはじめとした将来の社会変化とともに、日本の都市圏における生活環境はいかに変化していくだろうか。アクセシビリティに関連した今後の研究視角を考えるべく、いくつかの話題を提示する。 冒頭では、大阪大都市圏を例に、二段階需給圏浮動分析法などを活用した、GISによる客観的アクセシビリティの将来推計の例を提示する。都心部(大阪市周辺),都心部から約30km 圏内の郊外である郊外内圏,その外部に位置する郊外外圏のいずれにも,特有の問題が存在するが,郊外内圏では,複数の施設分野でアクセシビリティ上の問題が併発し,かつ将来的な状況悪化の可能性も高いことが示唆される。医療施設、保育施設、介護施設といった主要なケアサービスの供給不足や、スーパーマーケット、コンビニといった施設の健全な運営に必要な周辺人口の不足など、さまざまな問題が懸念される。 次のテーマとして、主観的なアクセスしやすさを測る認知的アクセシビリティについて論じる。とりわけ、将来、限られた人的・経済的資源を活用して生活の質を向上するためには、より多様な活動機会へのアクセシビリティが、個人の幸福度や生活満足度にいかに寄与するかを検証することがまず必要である。そこで発表者は、特定の目的地への行きやすさを超えた、個人の必要なもの/望むものなどに対しての、いわば「全体的な便利さ」をとらえるアクセシビリティの総体的感覚sense of accessibility(SA)の指標を、先行研究を参考に作成し、これが個別施設への客観的/認知的アクセシビリティや各種の個人属性などといかに関係しているかを解明する研究を進めている。さらに、客観的測度の洗練や認知的測度の活用による、アクセシビリティに対する理解の深化が進む一方で、シンプルで広範囲を網羅した指標に対するニーズも、地理学内外に存在する。特に、徒歩での暮らしやすさ(ウォーカビリティ)を、ある程度細分化された地域単位でスコア化したような指標については、疫学・医学・福祉学といった健康関連の分野でニーズが高まっている。発表者らは、全国の郵便番号界を単位として、人口密度、施設種類数、道路接続性からなるウォーカビリティの合成指標(JPWI)を公開した。このような指標の作成に係る背景・方法とともに、前記のSA指標と、ウォーカビリティ指標の間の関係を探る分析、すなわちアクセシビリティに関わる認知的/客観的指標の架橋の試みについて、簡単に紹介する。 アクセシビリティ分析を都市地理学、特に大都市圏において活用するには、往々にして大規模な空間データや社会調査を要し、都市を俯瞰的に分析するにあたって一定のハードルがあることは否めない。しかしながら、二次利用を前提とした空間的指標や調査データ基盤の整備に向けた地理学発の努力がなされ、それに基づいた新たな研究の展開がみられることも事実である。発表者の所感では、日本においては、医療・福祉、フードデザート、交通といったテーマごとに、必要に応じてアクセシビリティがツールとして用いられてきたが、日本の都市の行方を、そこに暮らす人々の生活の質を通して理解し、生じうる課題への効果的な対応策を考えるためには、生活に必須の財・サービス以外を含め、テーマ面でも空間的にも視野を広く持った分析を積み重ねること、そしてその門戸を広げられるよう、上記のようなハードルを下げる努力を継続することが必要である。