日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会春季学術大会
セッションID: S604
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観光客の空間利用と住民の観光意識の関係
鎌倉市における観光客の人流と住民意識調査のデータを用いて
*有馬 貴之大西 暁生土屋 隆裕戸田 浩之
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抄録

Ⅰ 持続可能な観光振興における住民意識の重要性

観光地には観光産業に直接的に関与する住民が居住する一方,日常生活の中で観光客を目にするだけという,いわば非関与的な住民も存在する(Francesc 2021).そのため,持続的な観光を志向するのであれば,観光客が持続的に一定数訪れ,域内消費を維持するだけではなく,非関与的な地域住民も含めた住民全体が観光に負の感情なく居住し続けられる環境を作る必要がある(Fabrícia et al.2020).住民の観光に対する負の感情を沈めるためには,その負の感情が観光客のどのような行動によるものなのかを理解する必要がある.そこで,本発表では神奈川県の鎌倉市を対象とし,観光客の行動と住民意識の関係性について,分析結果を示しながら議論していきたい.

Ⅱ 鎌倉市と使用データ

神奈川県鎌倉市は三浦半島の南西部に位置に面し,相模湾に面する人口17万人の観光都市である.2023年の観光客は約1,200万人と推定され,コロナ禍以前の観光客数へ近づく兆しをみせている.

本発表で示す分析で使用したデータは主に2つである.1つ目はAgoop社の保有する人流ポイントデータで,2023年の1月から12月の任意の30日間のデータとなっている.今回は鎌倉市在住もしくは鎌倉市勤務の人々を除いた延べ約24万人の人流データを用いた.2つ目のデータは鎌倉市と横浜市立大学が共同で行った観光に対する鎌倉市民の意識調査のデータである(鎌倉市・横浜市立大学 2024).この調査は鎌倉市民に観光の現状に対しての意識を問う郵送調査で,2023年12月から2024年2月に実施された.調査票回収数は1,490件(回収率59.4%)である.

Ⅲ 観光客の空間利用と住民の観光意識

1.観光客の空間利用

観光客全体の空間利用を示した図をみると,利用密度が高い場所として鎌倉駅・鶴岡八幡宮間と大船駅周辺の2つの地区があげられる(図1).また,空間利用を季節,曜日,時間,性別,年代別にみると,大船駅周辺は男性や年配の方々の朝と夕方での利用が高い一方,鎌倉駅・鶴岡八幡宮間は日中の女性の利用が高いなどの特徴がみられた.したがって,利用密度が高いとはいっても,それぞれにおける観光利用のされ方は異なると考えられる.

2.住民の観光意識

鎌倉市・横浜市立大学(2024)によれば,鎌倉市民の観光の現状に対する評価には地域差があるとされている.具体的には,観光利用密度の高い地区が目立つ鎌倉地域において相対的に評価が低く,観光利用密度の低い他の地区では比較的高くなっている.意識調査の結果によれば,その原因は観光客の流入によって引き起こされている交通渋滞や公共交通機関の混雑などが考えられ,観光客の空間利用が住民の観光に対する評価に影響していることが想定できる.

3.観光客の空間利用による住民の観光意識への影響

本発表では,鎌倉市の39地区のデータを用い,目的変数に負の影響への評価や,正の影響への評価,観光への総合的評価,観光政策への総合評価などの各値を設定し,説明変数に季節別,曜日別,時間別など,または性別,年代別,居住地別などの観光客の利用度合を設定し,分析(主に重回帰分析)を行った.その結果,住民の評価項目それぞれに対し,最も説明力のある空間利用(利用密度)の指標が異なることが示された.

Ⅳ 観光客の空間利用と住民の観光意識の関係の理解―学術の社会的役割を踏まえて

持続可能な観光において重視される住民の観光への態度は,観光客の来訪とその行動,そしてそれらへの対応(マネジメント)によって左右される.本発表で明らかになった事項が,住民の観光への態度および観光政策への態度をより向上させる端緒となれば,それは持続可能な観光に対する学術(地理学)の社会的な役割の一つとみなせるかもしれない.

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