主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2025年日本地理学会春季学術大会
開催日: 2025/03/19 - 2025/03/21
Ⅰ.はじめに
今日の日本では,経済の活性化手段の1つとして観光が注目されている.最近では,観光の中でも特に,アニメによるコンテンツツーリズムが,我が国で観光促進の1つの手段とされている.アニメを対象とした研究は,社会学からのアプローチが多く,観光客と地元の活動者といったコンテンツツーリズムを実施する人に着目し,それらの動向が明らかにしている.観光地理学におけるコンテンツツーリズムの研究は,人と地域の両方の視点から,コンテンツツーリズムによる観光空間の変容や観光活動が地域に与える影響を明らかにしている.これらの既往研究の課題・問題点は,実際にコンテンツツーリズムの取り組みを実施したところで,その効果がどれくらい持続したのか,あるいは持続したことによりどのような課題が出たのか,明らかにされた研究が管見の限り少ないことだ.これらを検証するために,コンテンツツーリズム自体の効果が確認できる元々観光地でない場所を選定することが望ましい.本研究では,静岡県沼津市を事例にコンテンツツーリズムの持続要因と課題を明らかにする.
Ⅱ.研究結果
本研究では,観光客,商店街,交通事業者の視点から,コンテンツツーリズムの持続要因と課題を明らかにした.持続要因は,観光客は熱心な古参のリピーターが訪れていること,商店街はキーパーソンの存在と,既存の取り組みを継続していること,交通事業者は既存の取り組みが継続されていること,著作権料の支払いが完結していることだ.課題としては,新規の観光客を獲得できず,イベント日のみ来訪の古参のリピーター頼みであること,商店街は,既存の取り組みが経済効果に繫がっていないこと,交通事業者は,既存の取り組みが8年経過しているため,話題性に欠けていることだ.作品の特性としては,シリーズの中でも9年前の作品であるため,観光客が定期的に訪れず,新規の取り組みがされていないと考えられる.
Ⅲ.考察
埼玉県久喜市アニメ「らき☆すた」と比較すると,久喜市の特徴は,統括者の存在(商工会)と,観光客の意向を汲み取った取り組みがされている.沼津市は,各事業者のキーパーソンが取り組みを創出している.久喜市はコンテンツツーリズムの効果が12年で,コロナ前までは定期的に集客できた.沼津市は9年経過の時点で,観光客がイベント日のみの来訪となっており,両者の対応の違いが関係すると考えられる.観光地の成功の鍵は,フォローアップと継続性である.沼津市は,新規の取り組みをせず,情報発信能力が乏しい.観光客は,14日間の定期的なイベントしか集客できていない.また,商店街の代表が集まり,コンテンツツーリズムの会議が行われているが,インタビュー調査の時点(2024/10/24)では,今後の動向について議論されていない.つまり,観光客の現状を踏まえた客観的な視点に立った分析ができていないように思われる.