日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会春季学術大会
セッションID: S802
会議情報

日本における若年労働者の就職移動と都市への影響
集団就職がもたらしたもの
*山口 覚
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

都市への人口移動は工業生産が拡大する近代以降に強まった。都市では人口が増加し,その空間はバージェスの同心円地帯モデルに見られるように拡張してきた。都市化とは,まずは都市における人口増加やそれにともなう建造環境の変化を意味しよう。  都市化という語はいま少し異なる意味で使われることもある。出郷者たちは都市への移住後にそれまで帰属してきた社会集団やそこでの生活様式を相対化し,程度の差こそあれ都市的生活様式を身につけ,新たなパーソナル・ネットワークを編成する(山口 2008)。それを都市化と呼ぶこともできよう。  都市移住という現象は,都市の姿を変えるとともに都市移住者自身の変化と結び付く。これらに関する研究は膨大になされてきたが,本発表では特に若年労働者の労働力移動現象の1つであった「集団就職」に焦点を当て,都市や社会への影響や,出郷後の集団就職者の生活の一端を見てみたい。集団就職者はそれ自体が日本における若年労働者の象徴であるとともに,都市移住者一般について具体的な手掛かりを示してくれるものでもある。  集団就職はネガティブなイメージをともなって表象されることが多いが,たとえば初職から転職した者の多くが社会的な転落を経験したといったイメージは誤りである(山口 2020)。発表者は既存のイメージに左右されることを避ける意味も含め,集団就職を「主に戦後・高度経済成長期に公的機関の諸制度によってもたらされた,新規中卒就職者を中心とした大規模な若年労働力移動現象および関連現象」(山口 2016)と定義して調査を進めてきた。確かに集団就職者がもっとも多かったのは高度経済成長期であった。しかしこの定義に従えば,広域職業紹介制度,集団赴任制度などの関連諸制度が整備された1930年代後半に始まる「少年産業戦士の集団就職」(山口 2018)や,1970年前後における韓国人研修生の労働者としての導入の試み(山口 2016)なども含まれることになる。  半世紀に及ぶ集団就職の展開は次のようになる。①戦時期:大手軍需企業中心。②1940年代後半:GHQの「募集地域の原則」による就職移動の制限期。③1950年代初頭以降:中小企業中心。④1950年代後半以降:大手企業中心。このうち,①と④では複数の同郷者とともに雇用されるケースが相応にあり,③では単身での雇用が少なくなかったというように,集団就職者の社会関係は時期によってかなり相違した。  本発表では集団就職に関連するいくつかの話題,たとえば「寄宿舎の設置などの建造環境の変化と都市イメージ政策」,「ジェンダー化された労働市場」,「故郷・同郷者とのネットワークの相対化による個人化」を通じて,都市に対する若年労働者の就職移動の影響について概観する。

著者関連情報
© 2025 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top