日本地理学会発表要旨集
2025年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 744
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神奈川県横須賀市における自然災害リスクの地域差と町内会・自治会の防災意識-共助の主体としての自主防災組織を対象に-
*三浦 エリカ
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抄録

Ⅰ 研究目的

 本研究では、都市部で地形的特徴が複雑で想定される災害リスクが多い神奈川県横須賀市において、共助の主体である自主防災組織が、身近な地域の自然環境をどのように認識し、想定されている災害へ備えているのかについて、実際の地形条件や災害想定との対比を行いながら調査し、どのような課題があるのかを明らかにすることを目的とする。

Ⅱ 方法 

 3つの方法から研究を行った。1.津波、洪水、土砂災害の3種類の想定データや地形地質、土地利用データを使用し、GISを用いた地域特性と災害リスクの解析。2.行政や町内会・自治会(以降:町内会)におけるヒアリング調査。3.町内会活動の参与観察。町内会・自治会は市内の10の行政区からそれぞれ数か所ずつ選び、津波や土砂災害、洪水といった町内会で想定されている災害への認識や、町内会の課題などについてヒアリングを実施した。

Ⅲ 結果

 横須賀市の行政地区(10地区)ごとに地形、浸水・土砂災害の想定・建物分布について述べた。また、ヒアリング調査を実施した各地区の64町内会を構成する地質と土地利用、想定される災害を、GISを使用して面積比を求め、建物用地(低層建物・低層密集地・高層建物・公共施設) の面積に占める想定される災害も示した。次にヒアリング調査では、各地区で想定される災害への町内会の認識を明らかにした。また、クロス表から、浸水・土砂災害想定範囲内に位置している町内会のうち、何か所の町内会で災害への認識があるかを明らかにした。また、避難所運営訓練や町内会の防災訓練において、参与観察を行い、参加者にヒアリング調査を実施した。その結果、実戦的な避難訓練の実施の必要性が強く感じられたため、津波避難訓練の実証実験を企画・実施した。避難訓練後の振り返りでは、参加者から、特に「高齢者や車椅子の人は避難が難しい」ことや、「これまでは、地域の特性に合わせた防災訓練を行っていなかったことに気が付いた」などの指摘があった。

Ⅳ 考察

 横須賀市では、東京湾と相模湾の津波・土砂災害・河川洪水などが想定されている。しかし、浸水・土砂災害の想定に対し、災害を認識していた町内会は半数程度のものもあった。想定されている災害に対して「被害がある」と認識している町内会の例では、「自分自身の体験」、あるいは「身近な人からの伝聞」が基となっていた。一方、「被害が少ない/被害がない」と認識している町内会では、「過去の災害で被害がなかったから」「東京湾だから」「防災工事が行われたから」というものであった。特に、「東京湾だから」では、市内では、税務署などの重要な機関が低地に移動してきたことや、自衛隊の施設が海沿いに新しく作られていることに言及していた。また、想定される災害への認識には、ハザードマップが認識の決め手とはなっていなかった。その理由について、ハザードマップは誰かが計算した「数値」にすぎず、そこに暮らしている人々の経験などは含まれてこなかったからと考察した。また、津波浸水範囲内に市指定の避難場所が設置されていたこともあり、ハザードマップの精度などに、受け手が疑問を抱いたことが、認識の決め手とならなかった要因の一つであると考えられる。さらに、これまでの避難所運営訓練や町内会の防災訓練が、町内会単位で想定されている災害への認識と結びつかなかった要因として、参加者が主体的に考えて行動することがなかったことや、課題の解決をせずに、毎年同じ防災訓練を実施していたからであると考えられる。

Ⅴ 結論・提言

 共助の主体である自主防災組織が有効に機能するためには、身近な地域の地形条件や社会条件をふまえた上で、実際にまちあるきなどを行い、災害リスクを認識し、自分たちで主体的に考えて行動することが重要である。また、地区防災では、第三者からの評価などを受けることが大切であり、地理学の分野からも貢献できると考える。

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