沖縄では墓は死者の家と言われており、墓を移動させることは良いこととはされていなかった。しかし、近年では沖縄本島の人口増加や定住化に伴い、各地から墓を移す事例がみられる。こうした墓移しには当事者の利便性を求める“想い”と、故郷や土地との関係が断たれることへの“想い”が交差することが報告されている。本稿は石垣島北部の戦後開拓集落での墓移しについての報告である。当該集落では、以前は崖にできた横穴を利用して墓を作っていた。しかし、集落内に共同墓地が作られてからはこうした墓は使われなくなり、移されていった。本報告事例の最終的な墓の移動先は沖縄本島である。しかし、沖縄本島の墓は死者が出ない限り開けることがないという習慣にあわせ、一時的に仮墓をつくって移しておくという方法がみられた。また、墓を移す契機にスピリチュアルな理由があった。そこから、石垣島と沖縄本島に暮らすそれぞれの遺族の語りを元に“夫婦は同じ墓に入るものである”という観念が墓移しの合意形成にかかわると考えられた。