日本補綴歯科学会誌
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原著論文
総義歯製作におけるゴシックアーチ描記図の分析
道振 義貴
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2020 年 12 巻 2 号 p. 158-167

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抄録

目的:本研究の目的は,新義歯製作時におけるゴシックアーチ(以下GoA)とタッピングポイント(以下TP)記録を定量的ならびに形態的に評価し,新義歯の調整回数とともに統計的に分析し,その関連について検討することである.

方法:タッピングを併用したGoA描記法によって得られた34の描記記録について,定量的にはアペックス(以下Ap)とTP間距離,前方・側方運動の各線分の長さと角度の計測を行って評価し,形態的にはGoAスコア法により図形の乱れの程度を評価した.さらにAp/TP間距離によって4つの群に分類し,TP収束の有無や義歯調整回数とともに統計的に分析した.

結果:①A群(0–0.8 mm)32.4%(11名),B群(0.9–1.6 mm)35.3%(12名),C群(1.7–mm)23.5%(8名),D群(TPのみ)8.8%(3名)で,A群でApとTPが一致したものは11名中4名で,全体の11.8%であった.②前方運動量と側方運動量では,各群にいずれも有意差はなかった.③Apからの左右側方運動路のなす展開角は,各群間での有意差はなかった.④Ap/TP間距離が大きくなるにつれてTPからの左右側方運動路のなす展開角は大きくなっていた.⑤Ap/TP間距離が大きくなるにつれてGoAスコアは大きくなっていた.⑥TPの収束は34症例中19症例が収束し,15症例が収束しなかった.TPが収束していた症例に比べ収束しなかった症例はAp/TP間距離とGoAスコアが有意に大きかった.⑦新義歯の調整回数は,B群とA群およびB群とC群との間で有意差が認められた.⑧新義歯の調整回数とTPの収束の有無には関連性がなかった.

結論:GoAおよびTPの記録に対し,定量的および形態的評価を行い,義歯調整回数やTPの収束度との関連性について評価した.Ap/TP間距離が大きくなった場合でもApからの運動距離と側方運動展開角には大きな差がなく,顎関節本来の可動性には差がないことが示唆された.しかし,TPからは中間運動領域で行われており,展開角が有意に増大した.Ap/TP間距離が大きくなるほどGoAスコアが有意に大きくなり,TPが収束しなくなることから,TPが前方位であるほど描記障害を生じやすく,機能の制限が生じている可能性が示唆された.また,Ap/TP間距離が0.9–1.6 mmのB群で義歯調整の回数が増加していた.本法により義歯調整回数は平均2.1±2.0回と比較的少なくすることができた.したがって,咬合採得位としての適正なTPを診断するために,TP法を併用したGoA描記法を行うことは臨床的に有意義であると考えられた.

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