日本調理科学会大会研究発表要旨集
平成15年度日本調理科学会大会
セッションID: s-3
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シンポジウム 食品の安全性から調理を考える
*永田 忠博
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キーワード: 安全性, 食品, 調理
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抄録
調理をハザードの増減から考えてみたい。Codexでは,ハザードは「健康に悪影響をもたらす可能性を持つ食品中の生物学的,化学的または物理学的な物質,または食品の状態」と定義されている。対策が最も必要なハザードは有害微生物というのが国際的認識であり,加熱による食中毒防止の意義は大きい。後述のアクリルアミド問題に対応したFAO/WHOの専門家会議の見解でも「食品の加熱のし過ぎを避ける」と同時に,「食中毒を防ぐため,肉や肉製品などの食品は十分に加熱する」が盛り込まれている。病原体を殺す段階(kill-step)を経ない刺身やサラダなどは,いかにリスクを減らすかが問われている。  重金属,マイコトキシン(カビ毒),アレルゲンなどの化学的ハザードは,調理段階で減るだろうか。食品成分が調理過程で失われることを,調理損耗という。精白米では洗米により,相当量の鉄やマグネシウムが流亡する。カドミウムも同様に,またはそれ以上に流亡すれば好都合であるが,残念ながらカドミウムは調理損耗が極めて少ない元素である。多くの種類があるマイコトキシンも,一般的に熱に対して安定である。昨年5月に暫定基準値が決まったデオキシニバレノールは,炒めたポップコーンで約8割,炊飯した押し麦で約9割が未変化で残留という報告がある。近年,食物アレルギーが大きな社会問題となっているが,食品アレルゲンの多くは調理や消化の過程を経てもアレルゲン性を保持する。さらにはアレルゲン活性が高まる場合もあり,牛乳加熱時のメイラード反応による,β-ラクトグロブリンが乳糖に結合した例があげられる。  調理前にはなかった有害成分が,調理により生ずることはある。「高温加熱した炭水化物を多く含む食品,例えばポテトチップ,フレンチフライ,ビスケットなどに高濃度のアクリルアミドが含まれる」というスウェーデン食品庁などの研究結果が,昨年4月に発表された。アクリルアミドは神経毒性があり,「ヒトに対して恐らく発ガン性がある」という化合物である。生の状態で茹でたり蒸したりしただけではアクリルアミドは検出されず,高温加熱により生成する。従来から,肉や魚を焼いてできた焦げの部分には,変異原物質であるベンツピレンやヘテロサイクリックアミンがあることが知られていた。ヘテロサイクリックアミンは,焼肉よりも焼魚に多く,焦げた部分が多い魚の皮には身よりも2~20倍多く含まれていたという国内の報告がある。また,蛋白質が糖類と高温下で反応してできる糖化最終産物(Advanced Glycation End products)も,糖尿病との関連性が指摘されている。これらの有害成分は「調理毒」という捉え方ができる。このリスクを減らす提案が,食品科学には期待されよう。ゼロリスクの食品は,現実にはありえない。特定のリスクにこだわった○×思考に陥ることなく,食品でも調理方法でも,リスクとベネフィットの両面から評価していくことが大切と思われる。
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© 2003日本調理科学会
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