抄録
【目 的】現在、管理栄養士養成教育の内容は高度化し、食事を考える際の基本となる食品や調理について学ぶ科目(食品学・調理学)に割り当てられる時間数は、旧カリキュラムに比べ縮小されている。しかし、入学時の学生の食べ物に関する理解は、多様な対象者に向けた食事(献立)を提案できるレベルには達しておらず、入学後の限られた時間で効率的に教育効果を上げる必要がある。本研究では、食事作りの基本知識の理解と技術の習得には「調理を習慣化させる」ことが有効であろうという考えを基に、調理教育の中で実技課題を課した。その中で携帯メールを強化因子として用いることで、強化因子が調理の習慣化に及ぼした影響についての基礎データを得ることを目的とした。
【方法】管理栄養士養成課程1年生前期の開講科目「調理実習」(135分/回、全15回)において、自宅で「野菜を切る操作」を含む調理をする課題を出した。課題は週に1度のペースで前期授業終了までに合計5ないし10回課し、授業時に各自が作った料理のレシピを紙媒体で提出させ、切る操作途中の様子と出来上がった料理(食卓の様子)を携帯電話で撮影したものをメール送信により提出させた。課題の取り組み前後、及び課題終了半年後(1年終了時)にアンケート調査を行い、調理に関する情報源や日常の調理回数、調理・食事に関する意識を調べた。
【結果】大学入学前には「母親」から調理を習う割合が高かったが、入学以降は「教員」や「教科書」から情報を得る割合が増加した。課題に取り組むことにより、自宅での調理回数は増加し、調理の基本的な技術や知識が身につき、食生活への関心が高まったという自覚を持つ傾向が認められたが、「知っている料理の数が多い」「料理をするのは得意だ」といった自信をつけるには至っていなかった。課題終了半年後には調理回数は取り組み前の回数に戻り、調理の習慣を定着させることはできていなかったが、学生は課題終了時の知識や技術が身についていると捉えており、調理に対するセルフエフィカシーが高まったと考えられた。