【目的】九州の西北部に位置する長崎県は,温暖湿潤な気候であるが平坦地に乏しく,多くの離島を有し,急傾斜地も多い.一方で古代から中国を中心とする大陸の文化や技術の影響を受け発展し,食文化においても気候風土に加え,異国文化の影響が反映されてきたといえる.この長崎県の食文化を次世代に伝え継ぐことを目的に,家庭料理として食されてきた(いる)行事食の特徴を文献,聞き書き調査等から得られた情報を中心に明らかにすることとした.
【方法】長崎県における行事食に関して郷土料理,郷土史に関する文献等を参考に季節行事や冠婚葬祭時に食される料理に関する資料を収集した.平成25,26年度にかけて長崎市,対馬市,壱岐市,雲仙市,新上五島町において現地居住歴35年以上の方20名(居住歴平均:70年)を対象に家庭料理に関する聞き書き調査を行い,昭和30〜40年代当時の行事食に関する内容をピックアップした.
【結果】聞き書き調査を行った5地域において,正月は雑煮,煮しめ,煮豆,魚・肉料理,上巳の節句はすし類,よもぎ餅類,端午の節句には赤飯,ちまき,盆はまんじゅう,麺類,彼岸にはおはぎ・ぼた餅類がほぼ共通して食されていた.使用される食材が地域により異なっていたが,ブリ,ハマチ,クジラ,イカ,鶏肉,豆類,季節の野菜類が使用され,各地域特有の料理が存在するとともに同じ料理でも行事によって使用する食材に変化をもたせていた.