2021 年 58 巻 1 号 p. 61-70
心臓は交感神経と迷走神経による二重支配を受けている.交感神経は心拍数を上昇させ,迷走神経は心拍数を低下させるが,両者の違いはそれだけではない.交感神経に比べて迷走神経による心拍数調節は速い.私たちはこのような動特性の違いを定量化するために,麻酔下のウサギを用いて心臓交感神経および迷走神経を白色雑音という特殊な信号系列で電気刺激し,心拍数応答を調べた.その結果,交感神経と迷走神経は互いに他の動特性を増強することが判明した.このような相互作用は,心拍数応答に動作点依存的なシグモイド曲線状の非線形性を仮定するとうまく説明できる.単純なニューラルネットワークを利用して,心拍数調節の動特性と非線形特性の同時推定が可能であった.今後,さらに複雑なニューラルネットワークを使うことで,自律神経活動に対する心拍数応答の推定精度を高めることや,心拍数の変化を元に自律神経活動を逆推定するような研究が期待される.