The Journal of Antibiotics, Series B
Online ISSN : 2186-5469
Print ISSN : 0447-8991
ISSN-L : 0447-8991
Leucomycin に関する研究
I臨牀的研究 1. 内服療法
沼尾 欣一
著者情報
ジャーナル フリー

1957 年 10 巻 2 号 p. 49-55

詳細
抄録

邦製の新抗生剤 Leucomycin (以下 LM と略す) は, 1953年北里研究所の秦等によつて, 北里研究所の庭及び東京都新宿区百人町の塵溜の土壌中から分離された新放線菌Streptomces kitasatoeusis, HATA, の培養濾液から抽出精製された塩基性の抗生物質である。
このLMは, 1952年 Lilly 研究所の MCGUIRE 等によつてStreptomyces erythreusから分離されたErythromycin (以下 EM と略す) およびPfizer研究所のTANNER, ENGLISH, LEES, ROUTIEN 等によつて分離された Carbomycin (以下 CaM と略す) 等とほぼ類似の抗菌性スペクトルを有しているが, 秦等は菌株, 溶融点, 紫外線吸収スペクトル, 赤外線スペクトル, 旋光度, PK値および呈色反応等の試験において, これらとの相違点を認め, 従来の報告にない新抗生物質であるとしている。
遊離塩基およびその誘導体の性状。遊離塩基は白色または微黄色の苦味のある安定な結晶性粉末で, 元素分析値はC 61.3%, H 8.5%, N 2.17% であり, 実験式として C 33-38, H54-66, NO11-13 (C1, Sは含まず) が与えられる。原末は100℃, 2時間の加熱では変化なく, 水溶液中では, pH 6.0 では 100℃ 1時間の加熱で変化はないが, pH 6.0 以下では同じ条件下で完全に破壊される。 水に対する溶解度は極めて低 (1mcg/ml以下) が, Methanol, Ethanol, Butanol, Acetone, Butylacetate, Benzene等には可溶であり, Petroleum, Etherには不溶である。 酒石酸塩で塩基を処理すると, 容易に塩を形成して酒石酸塩が得られる。 これは水に甚だ易溶で, Alcohol, Acetone にも可溶であるが, Ether には難溶で, Benzeneには不溶であり, やや吸湿性であり, 結晶性の粉末である。 LM塩基をPyridine の存在下にAcetic anhydrideと室温で反応させると, Acetyl LMが白色の結晶粉末として得られる。 Acetyl LMは水に不溶で苦味も全くなくなる。 その他, チオセミカルバゾンも得られる。
抗菌作用。 抗菌性は酸性側よりもアルカリ側で強い。 血清の影響を受け難く, 溶血性はみとめられない。 葡萄球菌, 枯草菌, 溶連菌, 肺炎球菌, ジフテリア菌, 破傷風菌, ガス壊疽菌等のグラム陽性菌, 淋菌等のグラム陰性菌およびスピロヘータに強力に作用し, 百日咳菌, ブルセラ属およびレプトスピラにも抗菌作用を示すが, グラム陰性腸内細菌には抗菌力が弱い。
力価および毒性。力価はいずれも純品について, 遊離塩基では 1,000mcg/mg, 酒石酸塩 では 730mcg/mg である。Acetyl LM の力価は, Methanol 水中で加水分解させた塩基の力価で表わすと, 600~650mcg/mg である。純品のマウスに対する毒性は,経口投与 (最大耐過量) で1,500mg/kg 以上, 静脈内 (酒石酸塩として投与) でLD50 450mg/kg, 皮下 (酒石酸塩として投与) LD50 850mg/kgで, 毒性の少い抗生物質ということになる。 また, 肺炎球菌, 化膿球菌, ジフテリア菌, ガス壊疽菌,回帰熱スピロヘータ, 恙虫リケッチア, 山羊非細菌性伝染性肺炎ビールス (大型ビールス), 百日咳菌等の動物感染(マウス, モルモット及び受精鶏卵等を使用)に対しての治療効果をみとめている。
このLM を使用しての臨牀報告例は極めて少く, 現在までに僅かに国分, 詫摩, 阿部, 美甘, 林, 上田等の報告があるに過ぎない。 私は各種LM 製剤を小児急性感染症に使用してその臨牀的効果を検討する一方, 抗菌性, 服用後の血中移行濃度ならびに家兎 マウスを使用しての諸臓器中含有量の消長等を検索し, 孵化鶏卵各種接種法による安定試験ならびに鶏胎仔諸臓器に及ぼす病理組織学的影響についてはEMを使用した場合とを比較検討してみたので,以下それらの結果について報告する。

著者関連情報
© 公益財団法人日本感染症医薬品協会
前の記事 次の記事
feedback
Top