1960 年 13 巻 2 号 p. 67-72
近年の著るしい抗生物質療法の発展によつて, 尿路感染症も多大の恩恵に浴し, きわめて満足すべき成果をおさめつつあることは周知のとおりである。しかし, 抗生物質の顕著な効果の発現と共に, その使用範囲が広く且つ頻繁となるにつれて, 耐性菌または菌交代症の発現, 抗生物質による重篤なアレルギーの出現等が注目されるようになり, 今日, 血中濃度の問題と共に新らたな抗生物質療法の研究課題として絶えざる努力がなされている。
ここに述べようとするNovobiocin (Cathomycin) は, 1955年米国Merck研究所のH. WALLICK等によつて発見された新放線菌Streptomyces spheroidesを培養して得られた新抗生物質で, 他種抗生物質に耐性を得た細菌でも強力に阻止することがみとめられ, 従来の抗生物質に較べてきわめて毒性が少なく, 経口投与によつて難治であつた変形菌の尿路感染症にも充分効果を現わすといわれ, 泌尿器科領域においてきわめて興味ある抗生物質と考えられる。今回, 明治製菓からNovobiocin (Cathomycin) の提供を受け, これを尿路感染症に試用し, いささか知見を得たので, ここにその臨床成績をとりまとめて報告する。
Cathomycinは天然に得られた最初の糖のカルバミン酸エステルで, 次の構造式をもつものである。
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化学名: 7-[4-(Carbamoyloxy)-tetrahydro-3-hydroxy-5-methoxy-6, 6-dimethylpyran-2-yloxy]-4-hydroxy-3-[4-hydroxy-3-(3-methyl-2-butenyl)-benzamido]-8-methylcoumarin