The Japanese Journal of Antibiotics
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小児科領域におけるOxacillin-Ampicillin合剤 (Broadcillin ‘Banyu’) の基礎的, 臨床的検討
小林 祥男伊藤 英子奥田 六郎小林 裕
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1970 年 23 巻 2 号 p. 116-122

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抄録

本来, 感染症の化学療法に当つては, 起炎菌を確定し, その感受性を調べた上で, 適正な薬剤を選択するのが定法である。 しかし, 現実には起炎菌の検出が困難な例も少なくはなく, また2種以上の細菌による混合感染のばあいもある。
小児, 特に未熟児, 新生児, 幼弱乳児においては, 敗血症や髄膜炎のような全身感染症をおこしやすく, しかも経過が早いのが特徴である。このばあい, 一般には起炎菌がグラム陽性菌であることが多いが, たとえば小児の気道感染症の咽頭細菌について調べた成績をみると1), 年少者では必ずしもそうとはいい切れず, 年令を問わずに, 検出された細菌の百分率をみると, ブドウ球菌が圧倒的に多く, 約37%を占め, 以下, インフルエンザ菌, 肺炎球菌, 溶連菌, グラム陰性桿菌の順である。年令別の検出率をみると, インフルエンザ菌, 溶連菌は年令が高くなるほど検出率高くなる傾向を示し, ブドウ球菌, 肺炎球菌では, 年令による差はあまりみとめられないのに対し, グラム陰性桿も菌では年令が小さいほど検出率が高い。また, 各種細菌による全身感染症の年令別分布をみると1, 7), ブドウ球菌, 溶連菌, 肺炎球菌によるものはあまり年令による差をみないが, 大腸菌, 緑膿菌, 変形菌, クレブシエラによるものでは, ほとんどが6ヵ月以下の小児に集中している。 このように, 未熟児, 新生児, 乳児の感染症では, グラム陰性桿菌が起炎菌である可能性が成人, 年長児にくらべて高く, しかも疾病が重篤で経過が早いため, 起炎菌を検出してから薬剤を選択する余裕がないことが多いので, まず第1選択として広域抗生剤を使用し, 起炎菌の決定をまつて適当なものに変更するという手順を踏まざるを得ない。 現在, 広域抗生剤としては, Chloramphenicol (CP), Tetmacycline (TC), Kanamycin (KM), Cephaloridine (CER), Ampicillin (AB-PC) 等があげられるが, CPは未熟児, 新生児ではGray syndromeをおこす可能性があり, また骨髄に対する影響も無視し得ない2) 。 TCは, 乳歯変色, 骨発育障害, 脳圧亢進等乳児に特有の副作用が知られている3, 4) 。KMは, 未熟児, 新生児, 乳児では少いとはいうものの, 聴力障害の危険があり5, 6), しかも溶連菌に対する抗菌力が弱いという欠点がある。 したがつて, さらに強力で副作用の少い広域抗生剤の出現が望まれるわけであるが, DUBOSもその著書 “細菌細胞” で述べているように, グラム陰性菌に有効な抗生剤はなかなか出現し難い。このような理由から, 幼弱小児においては, 溶連菌に対する抗菌力の不足を補うために, KMにPCを併用することがよくおこなわれており, またCERも賞用されている。同様な理由で, 広域ではあるが, 最近増加しているPC耐性ブドウ球菌に弱いAB-PCの欠点を補うため, AB-PCとOxacillin (MPIPCまたはCloxacillin (MCI-PC) の併用が考えられることは当然であろう。 この両者の併用については, 上述以外の効果も検討されているが, まだ充分な結論に達したとはいえないようである。 しかし, 上述の点だけでも, 小児科領域においては有力な1つの武器であろうと考えられる。 一般的にいつて, 合剤には種々の批判があり8), 合剤の安易な濫用はもちろん慎しむべきであるが, 以上の理由からAB-PCとMPI-PCの合剤 (Broadcillin ‘Banyu’) のばあいは, 検討の価値があると考えられたので, 以下の基礎的, 臨床的検討を試みた。

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© 公益財団法人 日本感染症医薬品協会
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