The Japanese Journal of Antibiotics
Online ISSN : 2186-5477
Print ISSN : 0368-2781
ISSN-L : 0368-2781
Cephalexinに関する基礎的, 臨床的研究
岩沢 武彦木戸 勉
著者情報
ジャーナル フリー

1970 年 23 巻 2 号 p. 203-212

詳細
抄録

耳鼻咽喉科領域の感染症からの分離病原菌は, 近年多数の抗生物質が発見され, 日常臨床に全身的または局所的に大量, 長期間使用する関係上, その副次現象として耐性ブドウ球菌の増多, さらに菌交代現象も関与して, 従来弱毒桿菌と称されていた緑膿菌, 変形菌, クレブシェラなどの一連のグラム陰性桿菌群の出現も, 化学療法上問題視されるにいたつた。したがつて今日,抗生物質研究の主眼は, これら耐性ブドウ球菌またはグラム陰性桿菌に対して強力な抗菌力を発揮し, 耐性獲得が遅く, 有効血中濃度を維持するとともに, 炎症局所組織への移行が良好で, しかも副作用の軽微な新らしい抗生物質の研究開発に集中する傾向にある。
感染症に対する抗生物質療法は, 実にPenicillinの発見を契機として, 今日までおびただしいまでの各種の抗生物質が実用化され, 感染症治療に著るしい臨床効果をあげてきたが, Dramaticな治療効果の期待しえる抗生物質としては, まずCephalosporineC系のCephaloridine (CER) またはCephalothin (CET) などのすぐれた薬剤をあげるほかなかろう。
これらCER, CETなどは, すでに注射製剤として強力な抗菌力を示し, 短時間で高い有効血中濃度がえられ, きわめて良好な治療効果をあげてきた。しかし, 従来の合成CephalosporineC系の抗生物質は, 腸管からの吸収が不良であり, 経口投与が不可能とされ, 臨床的投与が容易で, しかも有効血中濃度の維持が可能であるCephalosporine C系誘導体としての経口剤の開発が要望されていた。
Cephalexin (以下CEXと略記) は, 経口投与によつて腸管から吸収良好な新らしいCephalosporine C系の合成剤として最近開発され, グラム陽性菌およびグラム陰性菌に対して殺菌的に作用するBroad spectrum antibioticとして登場し, 感染症治療上にわかに注目を浴びるにいたつた。
CEXの物理化学的性状は, 白色結晶性の粉末で, 多少の苦味をもち, 粉末状態できわめて安定性は高く, その分子式はC16H17N3O4S, 分子量は347.4とされる。CEXの化学構造式は, 図1に示したように, 7-Aminocephalosporanicacidを母核とするCephalosporine C系の誘導合成剤であることは明らかである。
CEXの急性毒性は, 経口投与でマウスLD50 3,500mg/kg,ラット75,000mg/kgで, 諸臓器に対する毒性はきわめて低いといわれる。
CEXの経口製剤 (Cephalexin ‘Lilly’)は, 1ヵプセル中に250mgおよび500mg力価を含有するものがある。
著者らは, 今回この新規に開発されたCephalosporine C系の経口剤CEXについて, 耳鼻咽喉科領域における基礎的ならびに臨床的に検討した結果, 良好な結果をおさめたので, その成績の概要を報告する。

著者関連情報
© 公益財団法人 日本感染症医薬品協会
前の記事
feedback
Top