抄録
悪性腫瘍の治療には, 外科的療法と放射線療法が広くおこなわれているが, これらの方法には, それぞれ治療限界がある。近年, これらと併用するか, または単独に化学療法が登場して来た。化学療法剤の研究は, 過去20年余の間に著るしく進歩した結果, Actinomycin D, Mitomycin C, Chromomycin A3, Bleomycin等の抗生物質, Amethopterin, 6-Mercaptopurine, 5-Flurouracil, Nitromin, Cytoxan等の化学合成剤, Vincristine, Vinblastine等の植物アルカロイドなどが治療に応用されるようになつた。ところが, 古くから研究されている細菌または細菌体から抽出した多糖体は, 治療効果が不安定であることと, 発熱性等の副作用がしばしばみられるので, 未だ実用化の域に達していない。
ところで, 胃癌患者が2次的に化膿菌の感染を受けると腫瘍が消失するとか, または腫瘤の増殖が一時的に, あるいは長期間に亘つて抑制されるとか, 菌体成分を用いて腫瘤を縮小させた報告1), または生菌, 特に芽胞菌を注射すると菌が主として腫瘍組織に集り, Oncolysisをおこすことなどが報告されている2)。
著者らは, 1965年慶応大学医学部外科の島田教授から, 胃癌患者の患部化膿創から得た膿試料の分与を得て,Escheriohia coli, Pseudomonas aeruginosa, Staphylococcus aureus, Streptocoms hemolyticusの4種の細菌を分離し, それら4菌種の培養液のマウス移植腫瘍に対する作用を試験したところ, 培養液および菌体がSarcoma 180皮下腫瘍に対して抗腫瘍性を示したので, 菌体からLipopolysaccharideを抽出して, 抗腫瘍性および毒性等をしらべて比較検討したところ, いずれの菌の抽出物にも, ある程度の抗腫瘍性をみとめたが, その中でStaphylococcusの抽出物は毒性および副作用が最も低かつた。
そこで, 主として,Staph. aureusの培養菌体からWESTPHAL法3) およびBOIVIN法3) でLlipopolysaccharideを抽出して, 抗腫瘍性およびその他の生物学的性状をしらべたので, その成績を報告する。