1972 年 25 巻 4 号 p. 246-250
腸球菌は, 人間の腸管内,尿道, 腟, 口腔等の常在菌であるが, 人間だけでなく温血動物の代表的な常在菌でもあり, 動物寄生性の菌種である。本菌種の人本間に対する病原性は, 一般に弱いといわれるが, 細菌性心内膜炎や敗血症の原因菌となりうることや, 尿路感染など泌尿生殖器の感染をおこすことは広くみとめられている。また, 本菌は各種化学療法剤に耐性であり, しかも多剤耐性菌も少なくない。分類学上連鎖球菌と近縁であるが, 化学療法剤に対する態度は著るしく相異している。最近, いわゆる弱毒菌感染の増加が注目されているが, 腸球菌はその弱毒菌感染の原因菌の1つとしても今後重要な地位を占めるであろう。そこで私共は, 本院中央検査室における腸球菌の各種検査材料からの分離成績ならびに化学療法剤感受性の推移を10年間にわたつて検討した。