1979 年 32 巻 8 号 p. 819-829
胆道感染症は, 胆汁うつ滞に加わつた細菌感染であり, 胆汁流出障害の外科的排除とともに, 合理的な抗生物質の使用法が大切である。 その選択の条件として,(1) 腎臓および肝臓への毒性が少なく,(2) 抗菌力および抗菌スベクトルの広いもの,(3) さらに薬剤の胆汁中移行の良好なものが挙げられている1)。
Penicillin (PC) 剤などβ-Lactam類の薬剤は, きわめて低毒性であり, これらの条件に適している2)。 したがつて, 次々と新らしい半合性PC剤が開発され, とくにグラム陰性桿菌へのスペクトル拡大を期待するものが臨床に供せられている。
Mecillinam (MPC) は, 1972年デンマークのレオ社で合成された注射用の新合成PC剤であり, 尿路感染症に対する臨床的有用性は, 欧米はもちろん本邦においても, すでに確認されている3).しかしMPCは, 腸管から吸収されにくいため, nvaloyloxymethyl-ester, すなわちPivmecillinam (PMPC) が経口用として開発された (Fig.1) 。 PMPC自体は抗菌活性を示さず, 経口投与後, 腸管壁内の非特異的Esteraseによって加水分解されて, もとのMPCとなって, 抗菌作用を発揮することが明らかにされている。
本邦におけるPMPCの評価は, すでに第24回目本化学療法学会総会の新薬シンポジウムにおいてその有用性と安全性が確認されているが4), そのほとんどは尿路感染症であり, 胆汁中移行に関する基礎的検討や, 胆道感染症に対する臨床的効果の検討は, ほとんどなされていないといってよい。
今回, われわれは, 胆道感染症の初期治療としての経口抗生物質の意義を検討する目的で, このPMPC (Melicin®武田) の基礎的, 臨床的検討をおこなつた。