1982 年 35 巻 11 号 p. 2657-2675
小児領域においても, Pseudomonas aeruginosaが起因菌となる重症感染は, 新生児, 未熟児の様な幼若小児の場合, 又, 年長児においても, 種々の基礎疾患, 例えば血液疾患, 悪性腫瘍, 先天性免疫不全症, 重症心身障害などをもつ場合, 更に, 熱傷, 外傷, 手術後の創面の2次感染症においては, 決して希ではなく, 初期治療薬の選択は非常に困難であり, 予後も不良であることが多い。
緑膿菌に対して有効な薬剤としては, Gentamicin (GM), Dibekacin (DKB), Amikacin (AMK), 及びTobramycin (TOB) などのアミノ配糖体系薬剤, Colistin (CL), PolymyxinBのようなPolypeptides系薬剤そして, Carbenicillin (CBPC), Sulbenicillin (SBPC), ApalciliinあるいはPiperacillin (PIPC) などの合成Penicillin系薬剤などが開発され, 選択的に使用されている。アミノ配糖体系薬剤は, 最も信頼し得る薬剤ではあるが, 周知の様に高い血清中濃度を示す際には腎障害, 聴神経障害をおこし, 本邦では, 筋肉内投与だけが適応とされている。現在, アミノ配糖体系薬剤の点滴静注時の薬動力学的解析がなされつつあるが, その臨床使用は確立されておらず, 小児科領域においては, 筋硬縮症の問題もあり, アミノ配糖体系薬剤の使用は, 比較的困難と思われる。又, Penicillin系薬剤は, 一般に低毒性ではあるが, 大量に使用しても効力が弱い難点がある。
Cefsulodin (CFS) は武田薬品工業中央研究所で開発された新しいCePhalosPorin剤であり, 化学名は3-(4-Carbamoy1-1-pyridiniomethyi)-7β-(D-α-sulfophenylacetamido)-ceph-3-em-4-carboxylatemonosodiumsaltであり, Cephalosporanic acid母核の7位にSBPCと同じSulfophenylacetamido基を有している。
本剤の特徴は, 従来のCephalosporin系薬剤が有効な抗菌力を保持していなかつたP.aeruginosaに対してもアミノ配糖体系薬剤とほぼ同様の抗菌力を持ち1, 2), これらと交叉耐性を示さないと言われ, 各種細菌の産生するβ-Lactamaseに強い抵抗性を持ち, 体内動態では, ほとんど代謝を受けずに, 尿に排泄される点にある。
今回, われわれはCFSを使用する機会を得たので, 本剤について, 抗菌力, 血清中濃度などの基礎的研究を行うと共に, 緑膿菌感染症に使用したので, それらの成績について報告する。