1983 年 36 巻 3 号 p. 509-521
過去40年間の抗生物質の進歩は医学の発展に多大の貢献をしてきた。とりわけ近年のPenicillin系及びCephalosporin系抗生物質の開発はおびただしい数に昇り, 抗生物質の中心的役割は当分の間変らないと考えられる。現在繁用されているCephalosporin系抗生物質の1つの問題点はβ-Lactamaseに不安定なことであつたが, 最近この弱点を克服するためにβ-ラクタム環の7α位にメトキシ基を導入したCephamycin系抗生物質が開発され広く使用されるようになつた。
産婦人科領域における細菌感染について最近注目されていることは嫌気性菌の問題である。嫌気性菌はヒトの正常細菌叢を構成する常在菌として口中, 腸管等に存在するが, 腔に存在するものも多く, 産婦人科領域の感染症では外陰部膿瘍の75%, 卵管炎・骨盤腹膜炎の55%, 卵管・卵巣・骨盤内膿瘍の90%, 有熱流産・子宮内膜炎の75%に検出したと報告されている1, 2)。
産婦人科領域で使用される抗生物質としては上記のβ-Lactamaseに対して安定であること, 嫌気性菌に対して有効であることの2条件を満たすものが有用であろうことは改めて述べるまでもない。
Cefoxitin(マーキシン注射用, 以下CFX) はStreptomyces lactamduransが産生するCephamycin Cの誘導体として最初に開発されたCephamycin系抗生物質である。CFXはβ-ラクタム環の7α 位にメトキシ基を有するため, 各種細菌が産生するβ-Lactamaseに対して極めて安定である。本剤はグラム陰性菌, 特に. Escherichia coli, Klebsiella sp., Proteus sp. に対し強い殺菌作用を有し, 更にCephalosporin系, Penicillin系, Aminoglycoside 系等多くの抗生物質に対し耐性を示すといわれるBacteroides fragilisに対しても有効である3-7)。
今回我々は名古屋大学医学部産科婦人科学教室及び関連病院において産婦人科領域の感染症に対し本剤を投与し治療効果の判定を行うと共に細菌学的検索により原因菌の分離, 感受性試験を行つたのでその成績を報告する。