The Japanese Journal of Antibiotics
Online ISSN : 2186-5477
Print ISSN : 0368-2781
ISSN-L : 0368-2781
日本における広節裂頭条虫症の疫学
主としてサクラマスの感染を中心に
大島 智夫若井 良子
著者情報
ジャーナル フリー

1983 年 36 巻 3 号 p. 566-572

詳細
抄録

我が国の広節裂頭条虫症の感染源の魚類は, 主としてサクラマスOncorhynchus masou (BREVOORT)であり, ヵラフトマスOncorhynchus gorbuscha (WAKEAUM)はプレロセルコイドの寄生の報告はあつても実際の感染源となることは稀であり, びわ湖に棲息するビワマスOncorhynchus rhodurus (JORDAN & MCGREGOR)はびわ湖周辺の本症の感染源と目されるがまだ実証されていない。養殖のニジマスSalmo gairdneri irideus (GIBBONS) は一時疑われ, 長野県1), 静岡県で調査されたが, 感染魚は発見されず, まず問題ないとされる。
サクラマスの漁獲は, 日ソ漁業委員会のサケマス漁業に関する規制外であるが, 小型流し網漁業としては水産庁と北海道, 青森, 秋田, 山形, 新潟, 富山, 石川の各県と協議の上, 26隻の大臣許可船に対し, 3月15日から6月1日まで北緯45°以南の37°以北の日本海で許可され, 延縄漁業としては北海道から福井県まで, 340隻の許可船に3月15日から6月15日まで同じく北緯45°以南37°以北の日本海で許可が与えられ, いずれも陸揚げ港が指定されている。大平洋岸でも北海道, 津軽海峡, 三陸沖から福島県以北の沿岸で大平洋小型流し網漁業として同様に規制されているが, 日本海漁業に較べ小規模である。(水産年鑑による)。
サクラマスの漁獲統計は整備が遅れ, 日本の統計ではサクラマスとカラフトマスが区別されていないので過去の真の漁獲量は明確でない。近年の統計では海面漁業として4,000トン前後, 河川で100トン以下の漁獲量が続いている。その大部分(7割)は日本海でとられ, オホーツク海がこれについでいる。
諸外国の広節裂頭条虫は第1中間宿主, 第2中間宿主共に淡水産であり, Pike, Burbot, Perchとよばれるような淡水魚にプレロセルコイドが寄生し, 湖水周辺住民がそれを生に近い塩蔵品として食して感染しているが, 日本のように淡水河川から出て海洋を廻遊し最後に生まれた河川に戻るOncorhynchus属のような魚類が第2中間宿主となり, 特にプレロセルコイドが筋肉内だけに分布する例は他にない。
感染者数は戦中, 戦後激減していたが, 1960年代から, 再び増加し, 近年は, 毎年数百例の報告が北海道, 青森県から島根県にいたる日本海沿岸, 関東地方で見られる。この傾向が今後も継続するかどうかは今後の広節裂頭条虫症の対策に検討を要する問題である。それには次の3つの問題がある。
1.日本人のサクラマスの消費の傾向一特に, 寿司, 刺身として生食する食習慣-は徐々に強まつている。
2.サクラマスの広節裂頭条虫幼虫の寄生率に変動があるが, それを人為的にコントロールできない。
3.サクラマスが広節裂頭条虫の感染を受ける状況は全く未知で, それを人為的に防げない。
広節裂頭条虫駆除に関しては幸いなことに現今国内で駆虫効果の高いBithionol(INN), 硫酸Paromomycin(INN)の入手が可能であるが, 今後毎年相当数の患者が長期間にわたり発生することが予測される場合には, そのために一般臨床医が容易にこれらの薬剤を使用できるよう手続きを整えねばならない。その点からも今後の本邦における本症流行の予測が必要となる。
そこで主として横浜市魚市場に入荷するサクラマスについて1977年から5年間調査した成績に基づき, 水産庁のサクラマスの生態調査の研究結果を参照に上記の問題について以下のように考察してみた。サクラマス消費の実態, サクラマスへの感染に関してはデータに不足し推論の域を脱しないので, 最小限に触れることとする。

著者関連情報
© 公益財団法人 日本感染症医薬品協会
前の記事 次の記事
feedback
Top