1983 年 36 巻 7 号 p. 1900-1951
近年β-Lactam系抗生物質の開発はめざましく, グラム陰性桿菌に優れた抗菌力を有する注射剤がその中心をなしている。
しかし小児科領域での急性細菌感染症は新生児, 未熟児を除き易感染性の種々の要因がない限り主な起炎菌は呼吸器感染症ではStaphylococcus aureus, Streptococcus sp.の中ではStreptococcus pyogenes, Streptococcuspneumoniae, Haemophilus influenzae, 尿路感染症はEscherichia coli, 軟部組織感染症ではS.aureusである。
前述の種々の細菌に対する本邦でのAmpicillin (ABPC) の感受性はS.aureus1) 及びE.coli2) には耐性株が多く, H.influenzaeに対しても耐性株は増加の傾向にある3, 4)。しかしS.pyogenes及びS.pneumoniaeに対しては未だ優れた抗菌力を有している5, 6)。
本剤の投与方法には現在のところ, 静注, 筋注, 経口の3方法があるが, 経口での吸収は悪く, 小児では内服を嫌う例があり, 大腿四頭筋拘縮症のおそれがある筋注での投与は行いがたい。そこでABPCを含め種々の抗生物質において投与方法が簡単で経口と同等かそれ以上, できれば筋注に匹敵するBioavailabilityを有する坐剤化が望まれていたところ7), 京都薬品工業株式会社研究所がABPCの坐剤化に成功し, KS-R 1 (Ampicillin suppository) として住友化学工業株式会社と共同開発を行うことになつた。私たちは別稿に述べたとおり本剤を成人, 小児に投与し体内動態及び刺激性について検討したところ経口及び筋注に代り得る成績を得た8)。そこで, 本剤を小児に投与し吸収の確実性と個人差がないことをみる目的で単回投与後に1回採血を行い, 血漿中濃度を測定すると共に本剤の刺激性について既存の唯一の抗生物質坐剤であるErythromycin (EM) 坐剤及び解熱剤の坐剤との比較を行つた。更に, 種々の小児細菌感染症に対する臨床効果, 臨床分離株中2菌種の薬剤感受性, 副作用及び利点について検討したので, その成績を報告する。