1985 年 38 巻 10 号 p. 2970-2976
近年の抗生物質の開発はめざましく, 経口及び注射用抗生物質の両製剤において, 強力な殺菌力と広域抗菌スペクトルを有する優れた薬剤が創製されている。しかしながら, 小児科領域における感染症治療においては, 患児の服薬拒否あるいは高熱, 嘔気・嘔吐のため, 抗生物質の経口投与が困難な場合が多く, 又, 注射剤を必要とする患児にあつても, 静脈確保が難しいもの及び患者側の都合で入院治療ができないものなど, 治療上の問題点は多い。このようなケースには, 投与が簡便で, 強力な抗菌力を有する抗生物質坐剤の投与が適応となるが, 現在, 市販されているマクロライド系抗生物質のエリスロマイシン坐剤は, 抗菌力及び直腸吸収が十分でないことから, 本剤の用途はごく限られた使用範囲にとどまつている。又, 最近ではアンピシリン (ABPC) 坐剤が, ペニシリン系抗生物質としては初めて開発され, すでに臨床利用が可能となつている。
この度, 図1に示す化学構造を有する第3世代セファロスポリン系抗生物質であるセフチゾキシム (CZX) が, セファロスポリン系抗生物質としては初めてCZX坐剤 (CZX-S) として開発された。CZXは周知のとおり, 注射用製剤であり, 特にグラム陰性桿菌に対して強い抗菌力を有している1)。CZXの有効性と安全性は多くの感染症について明らかにされており2), 小児科領域においても, 重症感染症を含む各種感染症にその有用性が認められている3~5)。
以上のとおり, CZX坐剤はCZXの有効性と共に坐剤製剤の有用性を兼ね備えた薬剤として, 臨床適応にかける期待は大きい。今回, CZX坐剤を小児感染症に使用し, 若干の知見を得たので報告する。なお, 試験期間は昭和58年6月から昭和59年2月までの9カ月間である。