1985 年 38 巻 11 号 p. 3118-3144
呼吸器感染症に対する化学療法には, 現在広域スペクトラム及び強い抗菌力を持った抗生剤がしばしば使用されている。しかしながら, 呼吸器感染症の発生頻度は相変らず低下してはいない。むしろ, より広域で, 強力な抗生剤が汎用されることにより, 原因菌の検索が困難になり, 一方では感染症起炎菌の種類がより複雑になり, 又, 耐性菌株が次第に増加し, 化学療法に諸種の問題を投かけてきている。
呼吸器感染症の主要起炎菌は最近では, Haemophilus infiuenzae, Klebsiella pneumoniae, Pseudomonas aerugi-nosa, Streptococcus pneumoniae, Staphylococcus aureus, それにBranhamellaも加えられている。
H. infiuenzaeについてはAmpicillin (ABPC) 耐性菌が増加してきていると言われ, 更にいわゆる第3世代セフェム系薬剤にも著者らの研究でも耐性菌が散見されるようになつてきている。
S.aureusについては第3世代セフェム系薬剤が臨床に使用されるようになつてからその検出率が著しく増加しつつあるようであり, 又, アミノ配糖体薬剤耐性株が高率に出現してきていると言われている。
著者らは, ここ3年間にわたり全国各地の研究施設と共同で呼吸器感染症患者分離菌を収集し, 患者背景と起炎菌の関係, 起炎菌の各種抗菌・抗生剤に対する感受性推移などを, 経年的に調査してきた。今回も又, 若干の知見を得たので報告する。