1986 年 39 巻 7 号 p. 1671-1680
わが国の平均寿命は, 医療の進歩, 食生活の改善など様々な努力により, 第2次世界大戦後著しく延長し, 世界一となつた。これに伴い, 高齢者人口も増加の一途をたどつており, 加齢に対する取り組みも, 医学の分野でも, 老年医学を生み, 様々な研究がなされつつある。
わが国における死因順位の年次推移をみると, 昭和57年には成人病 (悪性新生物, 脳血管疾患, 心疾患) が3位までと圧倒的多数を占めており, 肺炎・気管支炎による死亡率は, 5.8%に過ぎない。しかし, 年齢別死因順位をみると肺炎・気管支炎による死亡率は15~59歳までは2.0%以下にすぎないが, 60歳を過ぎると漸次増加し65歳以上のいわゆる高齢者では壮年層の約4~5倍に達する1)。高齢者感染症が壮年者までの感染症とは幾分病態が異なり, 加齢に伴い, 各臓器の予備能低下, 機能不全, 免疫力の低下などがおこつてくる。これらを踏まえ, 高齢者の感染症に対処しなければならない。
今回, 我々は, グラム陽性菌, 及びグラム陰性菌に広範な抗菌スペクトルを有し, 特にグラム陰性桿菌に強い抗菌力を示し, 従来のセファロスポリン剤に耐性のCitrobacter, Enterobacter, Serratia, Bzcteroidesなどにも優れた抗菌力を有する新しい第3世代のセファロスポリン系抗生物質であるCeftizoxime (CZX, Epocelin®) を高齢者感染症に投与し, その有用性と安全性を検討した。併せて, 高齢者にCZXを投与した際のCZXの血中濃度, 尿中排泄率を測定して, 高齢者の感染症の特徴とその治療について若干の考察を加えて報告する。