The Japanese Journal of Antibiotics
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Cefsulodin滲出液中濃度について
中村 孝橋本 伊久雄沢田 康夫三上 二郎吉本 正典西代 博之中西 昌美
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1986 年 39 巻 9 号 p. 2355-2366

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抄録

近年, 本邦における老齢人口の増加は著しく, 老齢者の感染症は難治性であり, 予後も若年者に比べて不良である。感染症が難治性となる要因には, 起炎菌の種類, 患者の種々の病態, 治療薬剤, あるいは治療法の不適切など種々のものがある。老齢者, 癌などの悪性腫瘍患者あるいは重症外傷患者が感染症を合併し, 適切な治療が迅速に行われなければ, 難治性あるいは重症に陥るのは当然であると言えよう。
今日, これらの難治性感染症の起炎菌は, インドール陽性の変形菌, セラチア菌, 緑膿菌などのグラム陰性桿菌群などの複数菌種の感染によるものが多く, 更に嫌気性菌を合併していることがまれではない。抗菌化学療法剤の近年における進歩, 発達は目ざましく, 特にCephem系抗生物質は, 耐性菌の原因となつているβ-Lactamaseに抵抗性を有し, 抗菌スペクトラムを拡大した第2世代に続いて, 抗菌力を飛躍的に増強した第3世代のCephem系抗生物質が開発され, すでに一般に使用されるに至つている8), 9)。
緑膿菌はこれらの抗生剤にても, 充分な効果が期待できず, 長期間種々の抗生剤の使用後にも残存するか, あるいは菌交代現象の結果として現れることの多い原因菌である。既存の抗緑膿菌剤として, アミノ配糖体及びポリペプチド系抗生物質, 合成Penicillin系の広範囲抗生物質としてCarbenicillin (CBPC), Sulbenicillin (SBPC), Ticarcillin (TIPC), Piperacillin (PIPC) などがある13~16)。
Cefsulodin (CFS) は武田薬品工業株式会社中央研究所にて開発されたCephalosporin系抗生物質である。本剤はin vitroで緑膿菌に対して, 極めて強い抗菌力と殺菌作用を示し, その強さはCBPC, SBPCよりも一段と強く, アミノ配糖体とほぼ同等で, 且つアミノ配糖体耐性緑膿菌に対しても強い抗菌活性を示し, 緑膿菌の産生する各種のβ-Lactamaseに安定で, 体内にほとんど代謝を受けず, 主として腎から排泄され, in vivoにおける抗菌作用も優れていると共に, 安全性の優れている薬剤である1~6)。
一方, 化学療法施行時の人体内における吸収, 排泄の動態は, 血中濃度の推移, 尿中からの排泄動態について検索されている。しかし, 化学療法において有意義であるのは, 病巣である炎症組織内の抗生剤濃度であることは論を待たない。しかしこれを人体において測定することは非常に困難であり, 特にその動態については不可能に近い。一般には動物実験で各種組織, 体液中動態を検索して, 人体における動態を推定しているのが現状である。しかし動物に人体におけると同様の病態を作り出すことは非常に困難であり, 動物実験の結果をそのまま臨床に応用することはかなりの無理があろう。
CFSは抗緑膿菌剤であるために, 緑膿菌が単独又は複数菌感染の一部として検出される難治性の感染症に, CFS単独あるいは他の抗生剤との併用によつて使用されることが多い。急性腹膜炎あるいは胆管炎などにおいて, ドレナージが施行されている症例に使用されることが多いと考えられる。そこで著者らはドレーンを挿入した感染性疾患の滲出液へのCFSの移行を経時的に検索した。これらの滲出液は感染病巣から誘導されており, CFSの移行の検索は感染病巣内濃度を反映するものと考えられる。この結果若干の興味ある成績を認めたので報告する。

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