The Japanese Journal of Antibiotics
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小児科領域におけるCefpiromeの基礎的, 臨床的検討
岩井 直一中村 はるひ宮津 光伸渡辺 祐美種田 陽一
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1991 年 44 巻 7 号 p. 748-769

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抄録

新しい注射用Cephem系抗生物質のCefpirome (HR 810, CPR) について, 小児科領域における基礎的, 臨床的検討を行った。
1.小児2例 (5歳, 7歳) に本剤20mg/kgをOne shot静注で投与した際の血漿中濃度と尿中排泄について検討した。
血漿中濃度の平均は静注後1/2時間44.7μg/ml, 1時間28.5μg/ml, 2時間10.5μg/ml, 4時間4.6μg/ml, 6時間1.5μg/mlであり, 半減期は平均1.57時間であつた。又, 尿中濃度の平均は静注後0~2時間1,785μg/ml, 2~4時間545μg/ml, 4~6時間198μg/mlであり, 6時間までの尿中回収率は平均52.0%であった。なお, これらの成績は, 成人領域の成績と比較すると, 尿中回収率が若干低い傾向にあつた以外はほとんど変わらないと考えられた。
2.本剤で治療した化膿性髄膜炎3例における髄液中濃度について検討した。1回44.4mg/kgを1日4回投与したNeisseria meningitidisによる症例では, 投与1時間後の髄液中濃度は115~23.1μg/ml, 5時間後では0.94μg/mlであった。又, 1回49.0mg/kgを1日6回投与したSrreptococcns pnenmoniaeによる症例の投与1時間後の濃度は1.01~4.23μg/mlであり, 更に1回52.2mg/kgを1日6回投与したS. pnenmoniaeによる症例では投与1時間後では16.8~37.1μg/ml, 3時間及び4時間後ではそれぞれ3.60, 11.3μg/mlであつた。この成績は, Cefotaxime, Ceftriaxoneなどに比較して決して遜色がなく, しかも小児期の本症の主要原因菌であるEschfrichia coli, Streptococcns agalacriae, S. pnenmoniae, Haemophilus influenzaeのMIC90値を十分凌駕し得ると考えられた。
3.小児期の各種感染症62例に本剤を投与し, その際の臨床効果, 細菌学的4果, 副作用について検討した。
臨床4果の判定対象となった化膿性髄膜炎3例, 急性化膿性中耳炎1例, 急性化膿性扁桃腺炎2例, 急性気管支炎1例, 急性肺炎49例, 狸紅熱1例, 急性化膿性骨髄炎1例, 急性腸炎1例, 急性尿路感染症2例の計61例に対する臨床効果は, 著効38例, 有効22例, やや有効1例であり, 著効と有効と含めた有効率は98.4%と極めて高く, 又, 有効以上の症例における著効率についても63.3%と非常に優れていた。一方, 原因菌と推定されたStaphytococcns anrens 1株, Streptococcns pyogenes 4株, S, agalactiae 1株, S. pnenmoniae lO株, N. meningiridis 1株, E. coli 2株, Serraria liqnefaciens 1株, H. inflnenzae 18株に対する細菌学的効果については, S.liqnefaciensが存続, H. inenzaeの1株が減少であった以外はすべて消失し, 菌消失率は94.7%と極めて高いものであった。これらの成績については, 今回の検討症例の原因菌の分布にもよろうとは思うが, 小児期感染症で問題となる細菌に対し本剤がほぼ平均して優れた抗菌力を有する点が反映された結果であろうと考えられた。
副作用としては下痢が1例, 下痢と発疹との合併が1例に認められただけで, 重篤なものはなかった。いずれも軽度で, 投与中止の必要はなく, 又, 止痢剤などの投与を行わずとも自然に改善された。又, 投与前後の推移でみた臨床検査値異常についてはGOT上昇が3例, GPTの1二昇が1例, 血小板増多が5例, 好酸球増多が1例, GOT上昇並びに血小板増多が1例, GOT上昇, GPT上昇並びに好酸球増多が1例, GOT上昇, GPT上昇並びに血小板増多が1例, 血小板減少並びに好酸球増多が1例に認められたが, いずれも軽度のものであり, しかも再検査ができた11例においては一部を除き正常化が確認された。これらは, 既存のCephem系抗生物質に比べ種類, 頻度とも大きく変わるものではなく, 本剤の小児における安全性を示すものと考えられた。
以上の成績から, 本剤は小児期感染症においても有効性, 安全性共に優れた, 有用性の高い薬剤であると考えられた。

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