The Japanese Journal of Antibiotics
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小児科領域におけるSY5555の基礎的, 臨床的検討
岩井 直一中村 はるひ
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1995 年 48 巻 1 号 p. 103-128

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抄録

我が国初のペネム系経口抗生物質であるSY5555の小児用細粒剤について, 小児科領域における基礎的, 臨床的検討を行った。
1. 1993年に臨床分離されたstreptococcus pneumoniae 42株に対する本剤の抗菌力をβ-ラクタム剤を中心とした他の13薬剤と比較検討した。本剤の最小発育阻止濃度 (MIC) は全株0.39μg/ml以下に分布し, Benzylpenicillin (PCG) 耐性株にも優れた値を示した。また, MIC50及びMIC90値を指標として各薬剤の抗菌力を比較すると, 本剤はPCG感受性株に対してはCefazolin (CEZ), Cefotaxime (CTX), Cefuzonam (CZON), Amoxicillin (AMPC) 及びImipenem (IPM) とほぼ同等で最も優れ, またPCG中等度耐性株ではIPM, 高度耐性株ではCTX, CZON及びIPMと並んで最も優れていた。
2. 本剤で加療された小児16例において, 5mg/kgもしくは10mg/kgを空腹時あるいは食後投与した際の血漿中濃度推移と尿中排泄について検討するとともに, 本剤で加療中の5例においてその糞便中濃度を測定した。
年長児5例 (5~12歳) 及び6例 (10~13歳) に本剤5mg/kgを食後及び空腹時に投与した際の血漿中濃度推移は, いずれも投与1時間後にピークがあり, その値はそれぞれ0.93±0.25μg/ml, 2.44±1.25μg/mlで, その後は1.95±1.09時間, 0.72±0.21時間の半減期をもって漸減し, 投与後6時間までの尿中回収率はそれぞれ1.98±0.82%, 4.13±1.40%であった。また, 年長児3例 (6~9歳) に10mg/kgを食後投与した際の血漿中濃度は, 投与1時間後の1.58±0.81μg/mlがピークで, 半減期は1.08±0.30時間であり, 投与後6時間までの尿中回収率は3.46±1.03%であった。さらに, 乳児2例 (2, 3ヵ月) に10mg/kg, 食後投与後の血漿中濃度については, 投与1時間後の3.74μg/mlがピークで, 半減期は1.19時間であった。
また, 年長児5例 (2~9歳) において, 1回5~10mg/kgを1日3回投与中に測定した糞便中濃度はく0.05~47.8μg/gであった。
3. 小児期感染症35例を対象にして臨床効果, 細菌学的効果, 安全性及び服用性について検討を行った。尚, 臨床効果, 安全性ともに評価のできなかった4例を除いた31例に対する投与量は1回4.4~14.6mg/kgで, 1日の投与回数は全例3回, また投与日数, 総投与量はそれぞれ3~14日, 0.75~8.10gであった。
臨床効果の判定対象となった狸紅熱1例, 急性化膿性扁桃炎12例, 急性気管支炎4例, 急性肺炎6例, 百日咳1例, 急性尿路感染症3例, 膿痂疹2例, 計29例に対する臨床効果は, 著効17例, 有効12例で, 全例において有効以上の成績がえられ, 有効率は100.0%であった。また, 原因菌と推定されたStaphylococcus aureus 4株Streptococcus pyogenes 4株, Streptoccus pneumoniae1株, Moraxella (Branhamella) catarrhalis 1株, Haemophilus influenzae 4株, Escherichia coli 2株, Bordetella pertussis 1株に対する細菌学的効果は, 減少あるいは存続と判定されたH. influenzae 2株と投与後の菌検索がなされなかったB.pertussisを除いてはすべて消失と判定され, 菌消失率は87.5%であった。また, 菌交代のみられた症例はなかった。
副作用については, 下痢が1例, 軟便が1例認められただけで, その程度はいずれも軽度であった。また, 臨床検査異常についても, 軽度の好酸球増多が2例にみられただけで, しかもそのうち1例では正常化を確認しえた。
また, 服用性については, のみにくいあるいはのめないと訴えた者は一人もおらず, 全例がのみやすいとの評価を寄せた。
以上の結果より, 本剤は小児期の各種感染症に対し高い治療効果が期待でき, しかも安全に投与できる薬剤であると考えられた。
SY5555は, サントリー株式会社生物医学研究所で合成され, 山之内製薬株式会社とサントリー株式会社により共同開発されている我が国初のペネム系経口抗生物質である1)。本剤はペネム環上の2位にテトラヒドロフリル基を導入したもので, 好気性及び嫌気性のグラム陽性菌, 陰性菌に幅広い抗菌スペクトラムを有し, 各種β-ラクタマーゼに対しても従来の経ロセフェム剤より安定である1)。特に, Staphylococcus aureus, Enterococcus faecalisを含むグラム陽性菌やBacteroides, Peptostreptococcus等の嫌気性菌に対する強力な抗菌力は本剤の大きな特長の1つと考えられている1)。また, 本剤は各種細菌に対する最小発育阻止濃度 (MIC) と最小殺菌濃度 (MBC) とにほとんど差がなく, S. aureus, Escherichia coliの増殖曲線に及ぼす影響や形態学的観察等においても強い殺菌作用を有する成績が示されている1)。さらに, 本剤は原体吸収型を特徴としており, 成人に150mg, 300mgを投与した場合にえられる最高血中濃度 (Cmax) はそれぞれ2.36μg/ml, 6.24μg/mlと高く, 既存の経口β-ラクタム剤とほぼ同等あるいはそれ以上の吸収を示すと報告されている1)。今回我々は, 本剤の小児用細粒剤についての有効性, 安全性等を検討する研究会が組織されたことから, その一員として基礎的, 臨床的検討を行ったので, その結果を報告する。

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