1995 年 48 巻 11 号 p. 1658-1670
1992年6月から翌年5月までの間に全国11施設において尿路感染症と診断された患者から分離された菌株を供試し, それらの患者背景について性別・年齢別と感染症, 年齢別・感染症別菌分離頻度, 感染症と菌種, 抗菌薬投与時期別の菌と感染症, 因子・手術の有無別の菌と感染症などにつき検討した。
年齢と性及び感染症の関連についてみると, 男性, 女性とも50歳末満の症例が多く男性では大半が複雑性尿路感染症であり, 女性では単純性尿路感染症の症例が多かつた。50歳末満では女性の症例が圧倒的に多く, その大部分が単純性尿路感染症で占められていた。年齢や感染症別においても分離菌に違いはみられ, 単純性尿路感染症ではEscherichia coliの分離頻度が高く, カテーテル非留置複雑性尿路感染症ではE.coliとEnterococcus faecalisの頻度が高かつた。カテーテル留置複雑性尿路感染症では全体的にはPseudornonas aeruginosaとE.faecalisの頻度が高かったが, 50-69歳については1991年度はPaeruginosaとE.faecalisで52.0%を占め, その他の分離菌はOther GNF-GNRを除き全て10%以下の頻度であったのに対し, 1992年度は突出して高い頻度を示す菌はなくほとんどの分離菌が約10-15%前後で均等に現れた。薬剤投与前後における感染症群別の菌分離頻度をみると, 単純性尿路感染症では, 投与前に最も多く分離されたのはE. coliで53.6%を占めた。投与後は薬剤感受性が低いPaeruginosaやE. faecalis等が多かった。カテーテル非留置複雑性尿路感染症でも, 投与前はE. coliが最も多く分離され, 投与後はE. faecalisやPaeruginosaが多く分離された。カテーテル留置複雑性尿路感染症では投与前はE. faecalisが最も多く, ついでP. aeruginosaであったが, 投与後はP. aeruginosaが最も多く分離された。分離菌を因子・手術の有無別, 感染症群別にみると単純性尿路感染症においても複雑性尿路感染症においても因子・手術の有無が分離される菌にあまり大きな影響を与えている傾向は認められなかった。