The Japanese Journal of Antibiotics
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小児科領域におけるCefluprenamの基礎的・臨床的総合評価
Cefluprenam小児科領域研究会
藤井 良知阿部 敏明田島 剛小林 正明寺嶋 周目黒 英典砂川 慶介横田 隆夫秋田 博伸楠本 裕岩田 敏佐藤 吉壮豊永 義清石原 俊秀中村 弘典岩井 直一中村 はるひ久野 邦義加藤 徹小川 昭糸見 和也奥村 彰久早川 文雄高橋 秀明宮島 雄二神谷 齊北村 賢司桜井 實堀 浩樹伊藤 正寛三河 春樹木俣 肇西村 忠史杉田 久美子青木 繁幸高木 道生小林 陽之助東野 博彦木野 稔長尾 靖子河村 有美辰巳 貴美子越智 文子高屋 淳二野田 幸弘河崎 裕英小林 裕春田 恒和岡田 隆滋古川 正強黒田 泰弘松岡 優真鍋 哲也山下 貴司松田 博石田 也寸志貴田 嘉一村瀬 光春倉繁 隆信藤枝 幹也堂野 純孝岩村 透本田 明生松下 憲司町田 裕美子友田 隆士岡本 喬関口 隆憲辻 芳郎青木 繁林 克敏権藤 泉小林 伸雄本廣 孝阪田 保隆山田 秀二山田 孝津村 直幹吉永 陽一郎加藤 裕久今井 昌一森田 潤永山 清高荒木 久昭荒巻 雅史池澤 滋衛藤 元寿林 眞夫山川 良一小野 栄一郎橋本 信男末吉 圭子安藤 寛松田 健太郎松行 眞門弓削 健久保田 薫川上 昇樋口 恵美安藤 浩子平田 知滋久田 直樹富永 薫山村 純一堀川 瑞穂臺 俊一安岡 盟佐々木 宏和藤本 保間 克麿大木 洋美衛藤 美奈子
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1997 年 50 巻 7 号 p. 597-621

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抄録

新規に創製された注射用セフェム系抗生物質cefluprenam(治験コード番号: E1077, 以下CFLPと略す)は, 成人領域において安全性, 有効性が検討された。その結果, 本剤が小児科領域でも検討に値する特長を有する抗菌剤であると考えられた。また, 小児科領域への臨床導入に際して要求される幼若動物での安全性試験などで問題がないことが確認された。これらの成績を踏まえて小児科領域における基礎的・臨床的検討を目的とした研究会を組織し, 全国39施設による共同研究を実施し, 以下の成績を得た。なお, 患者はすべてその親権者等の法定代理人から同意を取得した症例であった。
1.臨床成績
総症例321例から, 除外・脱落例を除いた281例に肺炎と中耳炎の2疾患合併の8例をそれぞれの疾患に加えた289例が臨床効果解析症例であった。
臨床効果は, 原因菌の判明したA群154例で著効109例, 有効39例であり,「有効」以上 (有効率) は96.1%であった。疾患別に層別した場合の有効率は化膿性髄膜炎で6/6, 敗血症・菌血症で4/5, 肺炎で95.4% (62/65), 尿路感染症で100.0% (29/29), 皮膚・軟部組織感染症で94.1% (16/17) であった。著効経過率(「著効」/「有効」以上)は73.6% (109/148) であり, 最近のβ-lactam注射剤で最も高い値であった。Streptococcus pneumoniaeでは, 複数菌感染例を含み100.0% (32/32) の有効率であった。原因菌不明のB群135例で著効86例, 有効42例であり有効率94.8%であった。A群及びB群を合計した全体では, 95.5% (276/289) の有効率, 70.7% (195/276) の著効経過率であった。重症感染症である髄膜炎8/8, 敗血症3/5及び重症肺炎で100.0% (22/22) と高い有効率であった。細菌学的効果 (消失率) は95.2% (177/186) であった。グラム陽性菌では, staphylococcus aureusで94.3% (33/35), S.pneumoniaeで93.3% (28/30) の消失率であり, 陽性菌全体で92.7% (76/82) の消失率であった。グラム陰性菌ではEscherichia coliで100.0% (22/22), Haemophilus influenzaeで97.5% (39/40), Molaxella catarrhalisで100.0% (19/19) の消失率であり, 陰性菌全体で97.1% (101/104) の消失率であった。
先行抗生物質3日以上投与で「無効」であった104例に対して, 本剤に変更後著効68例, 有効30例であり, 有効率94.2%と優れた臨床効果であった。細菌学的効果 (消失率) は98.1% (52/53) であった。
2. 薬物動態試験成績
小児12例にCFLP20~40mg (力価)/kgを点滴静注し, 薬物動態を検討した。20mg (力価)/kg投与した1歳以上の小児9例での血清中最高濃度は155.3±9.8μg/ml, 血清中半減期は1.43±0.18時間, AUCは111.7±15.0μg・hr/mlであった。20mg (力価)/kg投与した1歳以下の乳児2例では, 平均血清中最高濃度は153μg/ml, 平均血清中半減期は1.6時間, 平均AUCは81μg・hr/mlであった。40mg (力価)/kg投与1例で血清中最高濃度は332μg/ml, 血清中半減期は0.93時間, AUCは157.3μg・hr/mlであった。20mg (力価)/kg投与例10例の尿中濃度は0~2, 2~4, 4~6時間でそれぞれ2413±512μg/ml, 1471±524μg/ml及び470±115μg/mlであり, 投与後6時間までの累積尿中回収率は61.4±6.3%であった。40mg (力価)/kg投与1例では0~2, 2~4時間で尿中濃度5700μg/ml, 4770μg/mlであり, 投与後4時間までの累積尿中回収率は42.1%であった。髄液中濃度は, 病日4日以内で化膿性髄膜炎の40~103mg (力価)/kg投与10例で, 投与後0.5~2時間後で3.2~32.9μg/ml(Cmax32.9μg/ml), 無菌性髄膜炎の20~41mg(力価)/kg投与4例で, 投与後1時間後で0.5~23.2μg/mlであった。
3. 副作用, 臨床検査値異常変動及び安全性
安全性の解析対象例は, 総症例321例から併用薬違反, 投与日数不足, 年齢違反, 同一患者への再投薬例等の20例を除いた301例であった。
副作用は3.7% (11/301) に発現し, その内訳は, 下痢, 発疹, 発熱, 嘔気, 低体温であった。臨床検査値異常変動は13.7% (39/285) に発現し, その内訳は, GOT, GPTの上昇, 好酸球増多等であった。副作用及び臨床検査値異常変動は-過性で重篤化したものはなかった。
副作用と臨床検査値異常変動を勘案して301例中226例 (75.1%)が「安全である」と判定された。「ほぼ安全である」と判定された67例中26例は, 副作用及び臨床検査値異常変動は認められなかったが, 臨床検査項目不足, 検査日違反及び投与後臨床検査未実施のために「小児科領域の抗菌薬の判定基準」に従って1ランク下げて判定されたものであった。
以上の成績から, CFLPは小児科領域において, 中等症から重症感染症に対し高い有用性を示す薬剤であり, 広域かっ強力な抗菌力を有することから, 原因菌が判明しない段階の経験的化学療法 (empiric therapy) の第1選択薬になり得るものと評価された。また, A群での著効経過率が73.2%と高く, 臨床症状の改善が早いことから, 7日以内で治療目的が達成される薬剤であると考えられた。

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© 公益財団法人 日本感染症医薬品協会
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