The Japanese Journal of Antibiotics
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白血病治療に合併する真菌感染症のEmpiric Therapy
日本におけるコンセンサスを求めて
正岡 徹
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1997 年 50 巻 8 号 p. 669-682

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抄録

白血病に合併する感染症の特徴は, 好中球減少を背景に発生することであり, 一般的に好中球数が1,000/μl以下になると感染症の頻度が増加し, 500/μl以下で重症感染症が多く,100/μl以下で致死的感染症に罹患しやすい1)。血液疾患そのもの, またその治療によって招来される感染症をいかに予防あるいは治療するかは, その治療成績の向上に極あて重要な因子である。事実, 血液疾患における細菌感染症の予防・治療法の進歩は, より強力な化学療法の施行をより安全なものとし, 種々の致死的血液疾患の治療成績向上に貢献してきた。
しかしながら, 深在性真菌症に対する診断, 予防, 治療は細菌感染症に比較して遅れをとってきた。この理由の1つとして深在性真菌症治療剤としてはamphotericin Bとflucytosineの2剤しか使用できなかった時代が長く続いたことがあげられる。1980年代後半よりazole剤の使用が可能となり, 1989年にはtriazole系のfluconazoleが, 1993年には同系のitraconazoleが上市された。また, もう1つの問題点であった深在性真菌症の診断に関しては, 血清学的診断法として真菌細胞壁構成成分であるβ-D-glucanを検出する方法や, Candida抗原を検出する方法が実用化され, 深在性真菌感染の存在を推測することが可能になった。これらのことより, 血液疾患に合併する深在性真菌症をより早期にまたより適切に治療することが近年可能となった。
また, 血液疾患合併感染症では起炎菌の確認には至らないものの, 血清学的診断法が陽性であったり, 発熱が続くなど真菌感染症を疑わせる臨床徴候がある症例に対して, 経験的に抗菌剤を早期投与する, いわゆる,empiric therapyが日常診療において施行されている。このempiric therapyの実施基準は確立されておらず投与開始のタイミング, 診断方法,投与薬剤の選択・投与量, 投与終了時期について様々な考え方があると思われる。
そこで, 今回は白血病治療に合併する真菌感染症のempiric therapyについて日本におけるコンセンサスを求めることを目的として,全国から血液疾患の治療に携わる医師および医真菌学の基礎研究者に参加して頂き, 討議を行った。

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