Archivum histologicum japonicum
Print ISSN : 0004-0681
犬眼瞼の知覚神経分布に就て
鈴木 喬
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1957 年 13 巻 3 号 p. 455-469

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抄録
犬の眼瞼も組織学上人の場合と本質的差異を示さないが, 然しその構成要素の発達及び配列状態に於て可なり著明な動物差が見られるから, その神経特に知覚神経分布の上にも人との間に可なりの差異が認められる.
眼瞼結膜の知覚神経分布は人でも劣勢であるが, 犬では一層劣勢, 特に眼瞼板に沿って然りである. これはこの部の固有膜の発達が極めて劣勢である事に由る. 即ち僅少の知覚線維は専ら非分岐性終末に移行して上皮下に終り, そして人に見られる様な糸毬状終末の如きは何処にも見られないし, 又上皮内線維も証明されない. 反之眼瞼板を離れてより深部の結膜になると, 固有膜の発達もより良好, 従ってこの中に進む知覚線維も稍々豊富となり, そしてこれ等は非分岐性終末の外, 単純性分岐性終末に移行して上皮下に終る.
犬眼瞼板は発達良好な Meibom 氏腺を含む強力なものであるが, 之に進入する知覚線維は人の場合よりも少く, 又その終末様式も遙かに単純, 一般に単純性分岐性終末として専ら眼瞼板の周辺部に形成される. 但しこの終末も特有な太さの変化に富んだ太い線維から構成される点では人の場合と異ならない.
犬の眼瞼縁は固有膜の発達が甚だ劣勢であるから, 之に対する知覚線維及びその終末の発達も人の場合に比し甚だ劣勢, 人に見られる様な特有な糸毬状及び系蹄状終末の如きは決して認められず, 非分岐性及び単純性分岐性終末形成が僅かに見られるに過ぎない.
犬眼瞼縁の外側角及び眼瞼外皮部は一般有毛性外皮に所属する. 従ってその中に来る可なり多量の知覚線維は多くは知覚性毛髮神経線維として比較的発達良好な毛髮神経楯又は管 (瀬戸) 内に来て稍々複雑な叢状又は鋸歯状終末に終る. 他の1部の知覚線維は乳頭層内に進む. 之は人の場合よりもより多量に存し, 専ら非分岐性及び単純性分岐性終末に移行して終る. 但し表皮内にまで入る線維は見られない.
犬眼瞼外皮部には乳頭層に対する表皮の陥入による紡錐状の特殊上皮膨隆の形成を見る. この膨隆直下の乳頭層内には可なり多量の知覚線維が来て稍々複雑な分岐性終末に移行する. その終末枝は上皮直下に専ら尖鋭状に終り, 上皮基底部との間に密接な関係を示す. この特殊上皮膨隆部は恐らく犬眼瞼に特有な或種感受器を表わすものと考えれる.
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© 国際組織細胞学会
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