抄録
涙阜及び半月状皺襞は10ケ月胎児に於て既に良好な発達を示し, 従って成人との間に特記す可き組織学的及び神経分布上の差異を示さない.
涙阜の深層は毛嚢腺と微毛所有の毛嚢の外に屡々 Moll 氏腺, 副涙腺及び小 Meibom 氏腺を所有する. 表層は反之この部に続く眼瞼結膜と同一粘膜から構成される. 即ち上皮は Contino その他の所見と異なり涙阜の頂部と雖も他の部と同様に粘液細胞を含む重層円柱上皮から成り, 固有膜は胎児では線維細胞に富んだ結合織から成るが, 成人では淋巴球に富んだ網状組織から構成される.
以上の組織像並びに眼瞼縁の内側角には毛嚢の発生を見ない事から考えると, 涙阜は瞼眼縁の内側角丈に由来する (Contino) ものではない. そして涙阜の表層は眼瞼結膜と同一粘膜に由来し, 深層は眼瞼外皮部の深層陥没によって生じたものと思考される.
半月状皺襞の粘膜は眼瞼結膜及び涙阜に於けると同一性状を示す. 但し淋巴球の集合は僅少, 又線維細胞と血管とに富んだ特殊小皺襞の形成も見られて興味深い. 涙阜に移る眼瞼結膜は他の一般結膜 (瀬戸) よりも知覚線維に恵まれない. 従って之に続く涙阜の粘膜でも前者同様知覚線維の分布は劣勢, 僅かの非分岐性或は単純性分岐性終末を見るに過ぎない. 勿論上皮内線維や糸毬状終末は何処にも証明されない.
涙阜の深層の神経分布は一般有毛性外皮に於けると略ぼ同様である. 但し知覚線維の量は遙かに少い. 知覚線維の大多数は毛嚢頸内の毛髮神経楯 (瀬戸) 内に単純な叢状終末を形成して終る. 之は体表に見られるどの毛髮知覚線維の終末よりも単純なものである. 知覚線維の1部は毛嚢腺の周辺に沿って上昇し, 粘膜内に既述の最単純性終末を作る.
半月状皺襞の粘膜内にも知覚線維の進入を見るが, その量は涙阜粘膜に対するものよりも多少多いが, 眼瞼結膜に於ける通性に従って尚お甚だ劣勢である. 終末様式も甚だ単純で一般に非分岐型で表わされる. 唯強い結合織から成る特殊皺襞では神経叢の形成も見られ, 又単純な分岐性知覚終末も発見される. 然し上皮内神経はここでも認められない.
植物線維は涙阜及び半月状皺襞に於ても体の他の部に於けると同様何れも Stöhr 氏終網に移行する.