抄録
猫と兎の肺内気管支枝の構成に可なりの差異があるから, 両者の気管支基礎神経叢に由来する知覚線維の分布状態にも可なりの相違が認められる.
猫の気管支枝壁では兎のものに比すれば筋層を除き, 粘膜固有膜, 粘膜下膜, 軟骨片, 外膜等の発達が遙かに強力である. 反之兎では筋層のみは比較的良好な発達を示すが, その他のものは発達甚だ劣勢, 猫の場合には比す可くもなく, その構成は極めて弱々しい. 但し両動物の呼吸性細気管支, 肺胞道及び肺胞嚢には特記す可き構成上の差異は見られない.
猫の大径気管支枝の外膜内には著明な基礎神経叢が見られ, 之に附随して交感性の大小の神経節も所々に発見される. 又粘膜下膜内にはこの神経叢に由来する粘膜下膜神経叢の形成を見る. 基礎神経叢が更に中径及び小径気管支枝の周囲の気管支枝神経叢に移行することは云うまでもない. 以上の神経叢は多数の微細な植物神経線維とやや多くの太い有髄性の知覚線維とを含む.
反之兎の気管支枝に於ては筋層を包む甚だ狭い外膜内に見られる基礎神経叢の発達は甚だ劣勢, その神経束は猫に於けるよりも遙かに細く且つより疎らに発見される. 又神経節は数も極めて少く且つ甚だ小規模に構成される. 然しその神経束の中に比較的多くの太い知覚線維の含まれている事は注目に値する.
猫気管支枝に於ては筋層の発達は劣勢, 反之粘膜固有膜は良好に発達することにより, 筋層内には人や他動物の肺で見られる様な極めて太い知覚線維に由来する血庄下降反射に関する知覚終末II型に類似のものは殆んど見られず, 可なり細い知覚線維に由来する単純性分岐性終末が極く少量に発見されるに過ぎない. 然し粘膜固有膜内には種々な太さの知覚線維に由来する分岐性終末が屡々発見され, 而もその終末枝は気管支腺の腺管或は粘膜の上皮内に進んで上皮内線維に移行する事も屡々である. 尚この上皮内線維は小径気管支枝に特に多量に発見される事は興味深い.
兎の気管支枝に於ては粘膜固有膜の発達が極めて劣勢であるから, 筋膜内に大径知覚線維に由来する非分岐性及び単純性分岐性終末の形成を見る事が多い. 尚その終末枝には稀ならず上皮内に進んで上皮内線維に移行するものもある.
猫では細気管支に終る知覚線維は甚だ少く, この部に達した可なり太い知覚線維は肺胞道及び嚢の方に進み所謂肺胞間非分岐性及び単純性分岐性終末に終る. 然し更に胸膜の中に進んでその結合織内に同様な終末に終るものも稀ではない. 反之兎では細気管枝の筋層又は上皮内に太い知覚線維に由来する単純性分岐性終末を稍々多量に見るが, 肺胞間終末は殆んど見られない. 然し胸膜内には屡々非分岐性及び単純性分岐性終末が認められる.