Archivum histologicum japonicum
Print ISSN : 0004-0681
ヒトのエックリン汗腺導管の電子顕微鏡的研究 とくに移行部上皮について
柴崎 晋伊東 俊夫
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1967 年 28 巻 3 号 p. 285-312

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抄録

この研究によって分泌部と導管の間に短い移行部があることが再確認された. 導管の2層立方上皮は表在細胞と基底細胞から成る. 表在細胞の高密度の殼皮層は, 表面と平行に密にならぶ張微原線維束と, その間を充たす微細顆粒状物質から成り, 管腔を囲む硬い輪をつくって管腔の閉鎖をふせぐ, 殼皮層から多数の短い乳頭状微絨毛が管腔へ出され, ミクロアポクリン分泌像を示すことがある. 殼皮層の中には管腔の微絨毛に接してあるのと同じ小滴と微粒子を含む小胞あるいは小空胞が多く出現し, 殼皮層の表面から下界まで分布し, 殼皮層に胞飲能があることを示唆する. このような超微構造はヒトのエ-汗腺導管にはNaやClのごとき汗の成分を再吸収し, 汗の濃度を調節する機能があるという説を支持する. 導管の表在細胞と基底細胞の細胞質には, かなり多くの糸粒体, 張微原線維束, 少数の粗面小胞体嚢, 多数の自由なライボゾーム, 滑面小胞と少数の多小胞体が証明される. 発達が悪くて小さいゴルジ複合体は層板と小胞から成り, 両細胞の核周囲部に見出される. 低密度のグリコゲン野は基底細胞のみに証明され, 核側部にある.
移行部は単層立方上皮をもち, その下層に不連続性に扁平基底細胞がある. 管腔を囲む立方細胞は少数の微絨毛と細胞質突起をもつのみで, 殼皮層のごとき特殊層や, 導管上皮に見られるような著明な細胞間嵌合はない. 立方細胞の細胞質内には, とくに核を囲んで厚い核周囲微原線維層をつくる多量の張微原線維, 多数の球形および小杆状または糸状の糸粒体内顆粒をもつ少数の糸粒体, 核上部にあって著明な層板と多数の小胞から成る, よく発達した大きいゴルジ複合体, 時にゴルジ野の中に見出される双中心子, 少数の粗面小胞体嚢, 多数の自由なライボゾームおよび限界膜で包まれ, 縦走する細管状構造をもつ多数の本態不明の紡錘形あるいは杆状暗調小体が認められる. 最も重要な所見は, 立方細胞のとくに管腔側部および基底部と外側部に多数の滑面小胞が出現し, それが時に表面の形質膜と接触し, また しばしば管腔, 基底膜および細胞間腔へ開口することである. これらは旺盛な胞飲あるいは逆の胞飲の存在を暗示する. 管腔側部にある小胞は直径約100mμ, 基底部のものはやや小さく約77mμであって, 両者の間にゴルジ複合体が介在する. さらに管腔面から色々の深さの形質膜陥凹が細胞質内へ陥入し, その壁にも上記のごとき小胞を伴なう. これら超微構造から次の想定が成立する. 移行部の立方細胞は旺盛な胞飲能によってNaやClのごとき汗の成分を汗腺細胞の分泌物から再吸収し, 細胞内を通して結合組織または細胞間腔へ排出する. この過程にはゴルジ装置と糸粒体が関与し, 扁平基底細胞も補助的役割を演ずるであろう. かくして人のエ-汗腺細胞の分泌物は先ず短い移行部へ, 次いで長い導管迂曲部へ流入し, 漸次その上皮によって再吸収を受けるわけである.

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© 国際組織細胞学会
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