イヌの心臓剌激伝導系を用い, 形態学的ならびに組織化学的観察を行ない, 次の所見を得た.
1. 洞房結節は一般心房筋線維より細く, 枝分かれの多い, 筋原線維のとぼしい, 筋形質の豊富な特殊心筋線維の網工から形成されている. 筋線維網の間隙には結合組織線維が混入しているが, 結節は 周囲の一般心房筋とは結合組織で境されていない. 一般心房筋との間に移行像が認められるが, 房室結節との間を結ぶ特殊心筋からなる径路は 認められない.
2. 房室結節は冠状静脈洞の開口部に近い後部と, 房室束に近い前部に分けられる. 後部の構造は洞房結節のそれに似ている. これら両部は明瞭な境界なく, 結節全体としては, 結節の後上部と房室束への移行部とを除けば, 完全に結合組織にとり囲まれ, 周囲の組織から分離されている. 結節の上後部で一般心房筋線維から結節筋線維への移行像が認められるほかは, 心房筋と結節との連絡はない.
3. 房室束を構成する特殊心筋線維は一般心筋線維より太く, 分岐も少なく, 筋形質が豊富で, 筋原線維のとぼしい筋線維が平行に配列して構成されている. 房室束は右脚と左脚に分岐する.
4. 右脚は肉眼的には三尖弁中隔尖の直下で心内膜下に出現し, 枝分かれしない太い1本の索として, 孤をえがきながら前乳頭筋の基部に至り, ここを拠点として次の3分枝群にわかれる. 1) 肺動脈円錐部に分布する枝. 2) 遊離壁に分布する枝. 3) 後乳頭筋の基部をはじめ, 広く中隔面に分布する枝.
5. 左脚は 肉眼的には 大動脈弁の後半月弁と右半月弁の接合部の直下で 広い幅をもって心内膜面下に出現し, ただちに扇のように分枝する. 主体となるものは数本の仮腱索となって左心室腔をよぎり, 前および後乳頭筋の基部にいたり, 広く心内膜面下に網工を形成する. また一部は, 仮腱索を形成せず, 直接 中隔面に分布する.
6. 網工のこまかさ, いいかえると枝分かれの密度は, 左右の心室とも遊離壁が最も大で, 中隔面では左心室側が右心室側よりも大である.
7. 心臓剌激伝導系各部は, いずれも多量のグリコゲンを含んでおり, これらのグリコゲンは 一般心筋線維に含まれるものに比して はるかに難水溶性である.
抄録全体を表示