抄録
成人男女5例の胃潰瘍患者の開腹手術時に 試験的に採取した健常な膵臓の小片について, 膵島を電顕的に検索した.
1. ヒトの膵島細胞はB, AおよびD細胞に分類される. β顆粒は直径約300-370mμで, 1ないし少数個の中等電子密度の多角形もしくは結晶様の心 (core) をもち, 限界膜がゆるく包む. 球形の心をもつ亜型もときに認められる. α顆粒は直径約450-650mμで, 1個の高電子密度の球形心をもち, 心と限界膜の間には間隙 (halo) がある. オスミウム単独固定では間隙は低電子密度で明るいが, グルタールアルデヒドとオスミウムの二重固定では間隙は高密度で不明瞭となる. δ顆粒はα顆粒に似て球形, 直径は約450-650mμで, オスミウム固定では低電子密度の球形心を包む限界膜は不連続性となり, 心に密接する. 二重固定では顆粒の電子密度は高く, 連続性の限界膜が心に密接する.
2. 島細胞の3種に emiocytosis による顆粒放出を示唆する所見は得られなかったが, 細胞内溶解による顆粒放出像が認められた. 心の電子密度低下と崩壊像, 限界膜の断裂や消失はこの見解を支持する. とくにδ顆粒は成熟にともなう電子密度の低下が顕著で, 低密度の顆粒では限界膜がしばしば断裂し消失する.
3. 島細胞のゴルジ装置はB細胞で最も発達している. 核の1側を占め, これを含む極 (ゴルジ極) は特殊顆粒の集積する極 (顆粒極) とはしばしば一致しない. 3種島細胞でゴルジ装置における顆粒形成が認められる. 小顆粒がゴルジ嚢のふくらみの内部や, ゴルジ装置の近くの滑面嚢に含まれている. ゴルジ野内に単独の中心子が見られることがある.
4. 島細胞内には 粗面小胞体と 小集団をなす自由なリボゾームが豊富に分布している.
5. 島細胞の糸粒体は とくにB細胞で形態の変化が著しく, 大きく不規則形となって糸粒体稜がほとんど消失しているものがある.
6. ヒトの島細胞の著しい特徴は多胞性脂肪小体の出現である. B細胞のものは直径2-3μで高頻度に出現する. 糸粒体膜に似た二重膜で囲まれ, 小体基質に含まれる小胞は周囲へ凸隆しない. A細胞とD細胞では数が少なく, その小胞は周囲へ強く突出する. B細胞の脂肪小体は膨大した糸粒体から生じ, A細胞とD細胞のそれはゴルジ装置でつくられると考えられる. 脂肪小体の運命と機能的意義についても論じた.
7. A細胞とD細胞とは 特殊顆粒の微細構造や脂肪小体の所見がよく似ていることを重視し, 両者を近縁の細胞と考えた.