Archivum histologicum japonicum
Print ISSN : 0004-0681
数種コーモリの橋内顔面神経について
山本 重亮沓沢 要吉高島 浩蔵斉藤 逵夫
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1955 年 9 巻 3 号 p. 411-421

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抄録

吾々は, 印度産大コーモリ, 印度産鼻長コーモリ, 日本産菊頭コーモリ及び南米産吸血コーモリ等翼手類の顔面神経核, 顔面神経膝, 孤束及び外転神経核に就いて, その走行, 発達の程度及び相互的位置関係を比較研究した.
先に山本及び其共同研究者等は, 同じく上記4種の翼手類の脳幹を研究し, 錐体路が強力に発達し, 外転神経核が顔面神経核の頭側端近くで現われる群 (A-群, 大コーモリと鼻長コーモリ) と, 錐体路が痕跡的に弱く, 外転神経核が顔面神経核の完全に尾側に位する群 (B-群, 菊頭コーモリと吸血コーモリ) とがある事を指摘したが, 吾々の観察によっても, これ等2群間には, かなり対照的な所見が観られた.
即ちA-群の孤束は, B-群のそれより稍強く発達し, 膝は, A-群では外転神経核の内側を上行し, 而も遙かに長いが, B-群では外転神経核の遙かに頭側で, 該核が占めて居た位置よりも外側を走り而もはるかに短い.
Kappers の所謂 Neurobiotaxis 説に従うならば, A-群に於て, 孤束が稍強く発達し顔面神経膝が遙かに長い事は, 即ち顔面神経核がその第1次の移動に際し, 孤束核に向ってB-群よりも, より強く牽引せられた事を意味する. 所が膝は, A-群に於ては外転神経核の内側に, 即ち孤束核からむしろより遠くに位置し, B-群に於ては外転神経核の外側に. 即ち孤束核により近く位置する. この事は所謂 Neurobiotaxis による牽引とは矛盾する事実である.
又既述したように, A-群では錐体路が強力に発達しているのに対し, B-群では極めて弱く痕跡的に認められる程度であって, 両群は極めて対照的であるにも拘らず, 顔面神経核は. 両群共に脳幹腹側縁に近く同じ位置を占めている. この事実も, 顔面神経核が錐体路からの刺戟に依って2次的に腹側に牽引せられたとする Kappers の説を以ては, 説明し難い事である.
尚後脳オリーブ核を基準にした場合, 顔面神経核は, B-群に於ては終始後脳オリーブ核の内側に位置しているが, A-群では該核尾側半は後脳オリーブ核の内側に位置するが, その頭側半は, 後脳オリーブ核の発達と共に押上げられてその真上に載っているような状態になる. 即ちA-群の顔面神経核が, その頭側半だけにしても錐体路からは遠ざかった位置を占める事になる. この事も, 両群の錐体路発達の強弱を考える時, Kappers の説とは矛盾する事である.
吾々はA-群の顔面神経核が, 後脳オリーブ核の発達と共に押しのけられて位置を変える事実のように, 神経核が受動的に移動する事実はこれを認めるが, Kappers の所謂 Neurobiotaxis 説は本研究の所見からも認め難い.

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© 国際組織細胞学会
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