Archivum histologicum japonicum
Print ISSN : 0004-0681
哺乳類橋内顔面神経の走行について. I
山本 重亮田中 耕三杉本 力夫松尾 由也
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1955 年 9 巻 3 号 p. 423-431

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抄録

橋内顔面神経の特有な走行を示す理由に就いては Kappers が彼の所謂 neurobiotaxis 説を以て興味ある説明をなしているが, 私達は各種哺乳類即ち猿類 (猩々, 大排々) 擬猴類 (狐猿), 鯨類 (鰯鯨, 真海豚), 翼手類 (小笠原大蝙蝠), 食虫類 (ハリ鼠, 麝香鼠), 貧歯類 (広帯鎧鼠, 大食蟻獣, 2指樹懶, 尾長穿山甲), 有袋類 (大カンガルー, ワラビイ, 袋狼, 兎耳袋狸, 大飛袋獣, 子守鼠, 袋イタチ) 及び単孔類 (ハリモグラ) に属する20種類の動物の橋内顔面神経の走行に就いて観察し若干の知見を得た.
これら哺乳動物の橋内顔面神経は顔面神経核の背面より発して第1部, 膝及び第2部を形成し, 膝は殆どすべての動物で外転神経核出現以前に形成されるが, ハリモグラだけは該核の出現後その上端近くで形成される. 外転神経核出現後の第1部線維の走行は動物の種類によって一様でなく, 該核を貫通するもの, 外背側から包むもの, この両者を混合するもの及び腹側から包むもの等があって複雑である. 膝は外転神経核の背側に位することは各種動物共に共通であるが, その位置は該核を基準にして, その中央に位するもの (尾長穿山甲), その外側に位するもの (鰯鯨, 真海豚, 子守鼠, ハリモグラ) 及びその内側に位するもの (猩々, 大排々, 狐猿, 小笠原大蝙蝠, ハリ鼠, 麝香鼠, 広帯鎧鼠, 大食蟻獣, 2指樹懶, 大カンガルー, ワラビイ, 袋狼, 兎耳袋狸, 大飛袋獣, 袋イタチ) 等があって, 私達は之を夫々I型, II型, III型として区別した. 膝は外転神経核の上端あたりで外方に方向を転じ, 第2部に移行する. 外転神経核残存中の第2部は一般的には該核の背側を外方に走るが, 一部分これを貫通するものも観られる.
I型及びII型を示す動物の膝の位置はIII型を示す動物のそれに比してかなり外側になっているにも拘らず. これら動物の孤束核の位置は大体同じであり, 而も形態学的にはっきりした発達の差異は認められない. 又II型とIII型では膝の位置にかなりの隔りがあるにも拘らず, この両型を示す動物の顔面神経核の位置は大体同じである. これらの事実は, 第1部及び第2部の線維走行が一様でなく, 色々異った走行を示す線維を有する事実と共に, Kappers の neurobiotaxis 説では説明し難い所見である.
上述せる如く哺乳動物の橋内顔面神経の走行は動物の種類によってかなりの相異を示すばかりでなく, 同じ類でも相異を示し, 人間のそれに比して単純ではあるが, 而も尚種々の走行を示す線維を含んでかなり複雑である.

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© 国際組織細胞学会
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