抄録
実験室培養による土壌の窒素形態変化速度と林地の窒素利用可能量の関係を明らかとするため,スギ人工林において異なる斜面位置・土壌深の窒素利用可能量をイオン交換樹脂(IER)により調査した。実験室培養での硝酸態窒素生成率は斜面位置により大きく異なったが,IER-無機態窒素では斜面位置に関わらず硝酸態が優占した。窒素無機化速度には斜面位置での差はなかったが,鉱質土層5cmのIER-無機態窒素量は15.9-57.5kg-N ha^<-1> year^<-1> で斜面最下部からの距離と弱い負の相関を示した(r_s=-0.32, P<0.10)。鉱質土層10cm以深のIER-無機態窒素量は9.8-15.6kg-N ha^<-1> year^<-1>で,斜面位置での差は小さかった。鉱質土層5cmの結果を含む二元配置分散分析によりIER-無機態窒素量の垂直変化は斜面位置で異なり,斜面下部ではIER-無機態窒素量が土壌の下層ほど減少するのに対し,斜面上部では減少量が小さいかほとんど変化がないことが示唆された。これらの結果と細根量の垂直変化から斜面上部では鉱質土層の無機態窒素が植物に有効利用されていないことが示唆された。