2023 年 32 巻 1 号 p. 3-9
香川県金刀比羅宮の森林管理の現状を,利害関係者の関わりを軸に整理・議論した。江戸時代には,金毘羅大権現(金刀比羅宮)の領地は朱印地とされ,金毘羅大権現が森林の管理・規制を行っていたことが示唆された。明治から昭和にかけて,森林は金刀比羅宮の社有地として維持され,神社の山林係によって定期的に巡回・管理が行われていた。一方で,近年では神社組織の縮小に伴い,森林管理に携わる職員数が減少していた。金刀比羅宮は行政機関による支援を期待していたものの,行政機関は総じて,管理方針を所有者である金刀比羅宮に委ねていた。地域住民の大半が,必要に応じて森林を管理すべきと考えており,神社または行政機関がそれを主導すべきという意見がみられた。反面管理を進めるべき主体を断定しない回答も確認できた。また,観光客へのアンケート調査から,金刀比羅宮そのものへの関心は低くないものの,森林への興味関心には及んでいないことが示唆された。以上より,森林管理において主体となるアクターが不明瞭となったことで,神社の森林が放任されるようになったと結論付けた。放任の解消に向けて,森林やそれに関わる制度の周知が有効であると考察された。