アプライド・セラピューティクス
Online ISSN : 2432-9185
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インスリン注入時間と握力の関係
石村 淳 布川 結菜油井 信明
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2023 年 18 巻 p. 47-52

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抄録

糖尿病治療薬として知られるインスリン製剤の自己注射注入器は、治療上の安全性・有用性のほかに患者の使用性・簡便性に配慮することが求められ、改良が進んでいる。しかしながら、握力低下など使用者側の問題で適正に注入操作を行うことが困難なことも考えられ、製剤と注入器の両面から適切な薬剤選択を行う必要性がある。そこで、本研究では握力の違いがインスリン注入時間に及ぼす影響について検討した。薬学部4年生を対象として利き手の握力測定し、4種類のペン型注入器(フレックスタッチ®: FT、フレックスペン®: FP、ミリオペン®: MP、ソロスター®: SS)を用いて、インスリン8単位の注入ボタンを押してから薬液の注入が終了するまでの時間を計測した。さらに、NDBオープンデータを用いて、各注入器の処方数量も算出した。その結果、4種類の注入器のうち3種類(FP、MP、SS)で握力が弱い程、注入時間が長いことが明らかになった。また、NDBオープンデータの結果からFTは、製剤数が最も少ないにも関わらず最も多く使用されている注入器であった。本研究結果から、握力の違いにより複数の注入器において注入時間に有意な差が生じることが明らかとなったが、どの注入器においてもインスリン8単位で0.2-0.3秒程度の差であり、この注入時間の違いが治療効果に直接影響を与える可能性は低いと推察された。しかしながら、注入時間保持に影響を与える因子は握力のみではないため、個々の患者に合わせた指導が重要である。

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© 2023 日本アプライド・セラピューティクス(実践薬物治療)学会
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