失語症研究
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原著
長期間いわゆる相貌失認を呈した一症例
—相貌失認の発現機序に関する再検討—
佐野 洋子加藤 正弘
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1991 年 11 巻 3 号 p. 161-171

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抄録
    18年同左半側視空間への不注意及び熟知相貌の認知障害,未知相貌の学習障害を呈したが,その他の重篤な視覚失認症状は日常生活で認めなかった72歳 (右利き) 男性 (脳梗塞) について,相貌認知を中心とする視覚認知能力全般の検索を行った。
    その結果,熟知相貌の失認,未知相貌の学習障害と共に,視覚認知能力全般の低下を合併していた。すなわち,写真図版を用いた,表情の弁別課題,異なる表情の写真を用いた人物の同定課題,車の形の微細な差異弁別課題などの他に,筆跡の同定,錯綜図・迷路など複雑な図版の認知課題などにいずれも困難を示した。これらの課題は相貌の弁別と同程度の難度の高い視覚認知課題と思われる。従来相貌失認は相貌に限る認知障害と定義されながら,多くの報告例で,相貌以外の視覚対象についての検索が十分ではない。本例のように,日常生活では相貌の弁別に匹敵する程高度の視覚認知能力を要求されることは少なく,相貌の認知障害が症状として浮き立ったと思われる症例の存在をふまえて,いわゆる相貌失認の発現機序を再考し,下位分類を検討する価値があると考える。
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© 1991 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会 (旧 日本失語症学会)
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