抄録
左半側空間失認をともなった交叉性失語4例を報告し,若干の考察を試みた。症例A (女,45歳) は右前頭葉損傷 (神経膠腫の手術例) で構音失行それに錯書が特徴的で,病巣は右側脳室前角周辺を含んで,前頭葉から側頭葉の一部に及んでいた。症例B (女,60歳) は右側頭葉から後頭葉の広範な損傷であるが,聴覚理解は当初から正常で,喚語困難と錯書 (ジャルゴン失書) が顕著であった。症例C (女,59歳) は右側頭葉から頭頂葉の損傷 (血腫除去手術例) で重度の全失語となり,発声はできても発語はほとんど不可能であり,書字も全くできなかった。症例D (男,71歳) は右側脳室前角周辺の限局した損傷であるが,失文法と失書が主症状で,聴覚理解と文字理解は良好であった。そしてすべての症例に左半側空間失認がみられた。