失語症研究
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原著
言語症状の特異な変遷を示す初老期痴呆の一例
仲村 禎夫浅井 昌弘保崎 秀夫柳井 清
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1991 年 11 巻 3 号 p. 208-212

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抄録

変性型の痴呆疾患にあっては疾患過程の進行に伴って知的機能のみならず言語機能も解体してくる。しかし臨床的にアルツハイマー病などの変性性痴呆の言語症状は,血管性痴呆とは異なっており,重要な鑑別診断の指標になると考えられる。ここに報告するアルツハイマー病と思われる症例は,52才頃より物忘れをもって発症し,次第に異常行動,作話,妊娠妄想などを認めるようになった。痴呆は進行性の経過をとり,それと平行して言語学的に興味ある所見が認められた。すなわち痴呆が高度となり,もはやコミュニケーションが成り立たなくなるに従って語彙が減り,情動言語に限られてきた。それと共に,言語学的には,独語の形で反復言語,反響言語,語間代,韻を踏んだ特異な反復言語形式,一定のパターンとリズムを持つ音韻の羅列へと変化していった。このような言語症状の形式上の変遷は,アルツハイマー病などの変性型痴呆の一般的な経過ではないとしても,言語機能の崩壊のひとつの過程を示すものと考えられた。

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© 1991 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会 (旧 日本失語症学会)
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