抄録
われわれは,日本語と韓国語併用者の右利きの交叉性失語の1例を報告した。症例は75歳の男性で神経学的所見は,軽度の左不全片麻痺および全失語を認めていた。頭部MRI検査では,右中大脳動脈領域に広範な梗塞巣を認めた。言語所見は,自発話で「aigo : 」のみの残語を呈し全失語と診断された。本症例の言語習得タイプは等位型で,言語回復過程は,日本語の聴覚的理解のみが改善し,韓国語では改善がみられなかったことから,日本語の選択的回復形式と判断した。本症例の言語症状の改善の要因は, (1) 自然回復の可能性, (2) 日本語の習熟度が,韓国語の習熟度より高かった可能性, (3) 日本語のみの言語訓練を受けた影響の3つが考えられた。本症例は,日本語および韓国語で右利き交叉性失語を呈しており,両国語の言語機能は,右半球に側性化していたと考えられた。