失語症研究
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原著
左前頭葉脳腫瘍摘出後に Gerstmann 症候群を呈した1例
三宅 裕子川村 純一郎波多野 和夫
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1997 年 17 巻 3 号 p. 233-240

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抄録

左前頭葉の脳腫瘍摘出後,明らかな失語症や知的機能の低下を伴わずにGerstmann症候群の4症状を呈した1例を経験した。症例は31歳の右利き女性。左中前頭回皮質下に良性神経膠腫が認められた。術後,神経学的には異常所見はなかったが,手指失認,左右障害,失書,失算を呈した。聴理解は良好,発話は流暢,呼称,復唱,音読に障害はなかった。知的能力は保たれていた。構成失行やその他の失行,失認は認められなかった。本例の場合,手指失認は言語性の誤りであり,失書は想起困難が主体であったが,左右障害は言語性の障害のみでは説明できず,失算も失語性の誤りはなく演算の障害であった。
    左前頭葉病巣による本症候群の報告はきわめてまれである。本例は,4症状が左前頭葉病巣により生じたこと,明らかな意識障害や失語症,知的機能低下を伴わずに出現したこと,の2点において特徴的であり,本症候群の独立性や症候学的特徴を検証するうえで貴重な示唆を与える症例と思われた。

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© 1997 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会 (旧 日本失語症学会)
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