失語症研究
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原著
道具の強迫的使用の一例
—視覚的注意との関連について—
大江 康雄加藤 元一郎鹿島 晴雄半田 貴士鶴岡 はつ
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1988 年 8 巻 4 号 p. 283-290

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抄録

左半側空間無視を伴い, 右手に道具の強迫的使用現象を呈した症例を報告した. 患者は脳梗塞で発症した 74 歳, 右利きの男性. CT では両側前頭薬内側面, 脳梁膝部および右中大脳動脈領域に病変を認めた. 左片麻痺, 右手の把握反射, 本能性把握反応のほか道具の強迫的使用現象が認められた. 失行は認められなかった. 本症例では, これまで報告のなかった二つの顕著な特徴を認めた (1) 対象を認知している場合でも, 閉眼では道具を強迫的に使用することがなかった. (2) 対象から視線がそれると強迫的使用が一時中断した. これらの事実から本症例では, 視覚を介した対象認知が症状発現にとって必要不可欠であると考えられる. さらに, 道具の強迫的使用現象が左半側空間無視と平行して推移したことで, 左半側空間無視によって右視野に過注意状態が惹起されていたことが道具の強迫的使用現象の発現に何らかの関連を特っていたとも解釈できる.

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© 1988 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会 (旧 日本失語症学会)
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